乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン

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乳癌治療が終了した乳癌患者が妊娠した場合,乳癌フォローアップ検査を行うことは勧められるか?

ステートメント
乳癌治療が終了した乳癌患者の妊娠中乳癌フォローアップ検査として,問診・視触診は勧められ,マンモグラフィと乳房超音波検査については施行を考慮してよい。

BQの背景

乳癌初期治療が終了した乳癌患者が妊娠した場合の,妊娠中乳癌フォローアップ検査のエビデンスは存在しない。一般的乳癌の初期治療後フォローアップとして,本邦1)や海外2)3)の乳癌診療ガイドラインでは,適度な間隔の問診・視触診と定期的なマンモグラフィは強く推奨され,乳房温存術後の超音波検査は望ましいとされている。本BQでは妊娠中および授乳中の乳房画像診断についてのガイドラインをもとに妊娠中の乳房の変化,胎児への被曝リスク等に考慮しながら乳癌フォローアップ検査の介入について概説する。

解説

1)問診・視触診

初期治療後,定期的な問診・視触診とマンモグラフィのみのフォローアップを行う群と,それらに加えて他の画像検査や血液検査もフォローアップする群とを比較した2つの前方視的臨床試験が行われた4)~6)。その結果,追加検査は転移再発巣の早期発見につながるが生存率は改善しないことが示され,初期治療後の定期フォローアップは問診・視触診とマンモグラフィのみの推奨となった。

問診・視触診は,初期治療後3年間は3~6カ月毎,その後2年間は6~12カ月毎,それ以降は1年毎が勧められている。妊娠期においても妊娠による乳房の変化に配慮しながら問診・視触診を行うことが勧められる。

2)マンモグラフィ

本邦および海外のガイドラインで年1回のマンモグラフィは問診・視触診と並び,初期治療後の定期フォローアップとして推奨されている。妊娠中のマンモグラフィによる胎児被曝量は0.03mGy未満であり,50mGy以下では催奇形性の影響は示されていない7)。妊娠中でもマンモグラフィは適切な腹部遮蔽を用いれば禁忌ではないとされている8)。妊娠中は乳管や腺葉の過形成,水分量の増加や間質脂肪の減少によりマンモグラフィで乳房の濃度を上昇させると考えられているが,妊娠中はほとんどが散在性または不均一高濃度乳房を呈するという報告もあり9),妊娠期乳癌に対するマンモグラフィの感度は78~90%と報告されている10)。よって,適切な遮蔽下においてマンモグラフィは妊娠中の乳癌フォローアップ検査として効果的かつ安全に施行できると考えられる。

被曝量についてはBQ8を参照。

3)超音波検査

本邦のガイドラインにおいて,術後の局所再発や対側乳癌の早期発見のために定期的に乳房超音波検査が行われることが望ましいとされている1)。現時点では,妊娠中の乳房超音波スクリーニングを評価する研究はないが,妊娠期乳癌の診断において超音波検査が最も高い感度を有していること11)~13)や,被曝や造影剤曝露の問題がなく低コストで行えるモダリティであることより補助的なスクリーニング法として第一選択として用いることができる。ただし妊娠中の乳房超音波検査では,乳管や腺葉の過形成等によりびまん性のechogenicity(エコー輝度)の低下をきたすこと,偽陽性率を高め不要な検査を促す可能性に留意することが必要である8)

肝臓超音波検査も被曝の問題なく行える検査であるが,無症状患者に対する定期的な検査の有用性を示した研究は存在しない1)

4)MRI

本邦のガイドラインにおいて,術後の対側乳癌の早期発見のために乳房MRIが許容され得る症例があるとされているが,妊娠中にガドリニウムが胎盤を通過する安全性に関するデータが限られているため,スクリーニングとしての乳房MRI検査は妊婦には推奨されていない8)

頭部MRI検査については,無症候性脳転移のスクリーニングによる生存率の改善が認められていないことや造影剤の曝露の問題から,妊娠中のスクリーニング検査としては勧められない。

5)胸部X線

初期治療後,定期的な胸部X線検査による生存率の改善を示した研究はない。症状発現時に限って施行することにより医療費が削減された報告がある14)

被曝量についてはBQ8を参照。

6)胸腹部CT

初期治療後の定期的な胸腹部CT検査による有用性を示した研究がないことや,胎児への被曝の問題により妊娠中のスクリーニング検査としては勧められない。一方で妊娠中または産褥期に胸部CTへの曝露によって母体乳癌の短期リスク増加は認められなかった15)ことから,再発を疑う有症状の症例には検査を許容し得る場合もある。

被曝量についてはBQ8を参照。

7)骨シンチグラフィ,FDG-PET

胎児への被曝の問題から妊娠中のスクリーニング検査としては勧められない。

被曝量についてはBQ8を参照。

8)血清腫瘍マーカー

一般の乳癌術後において,腫瘍マーカーの感度,特異度は比較的良好であり,再発診断に有用であることが示されている一方で,生存率や費用等の観点においては有用性を示す研究は存在しない1)。また,妊娠中は生理的な妊娠性変化により腫瘍マーカーが変動するという報告16)もあり,妊娠時期によっては判定に困難を要し,妊娠中のスクリーニング検査としては勧められない。

以上より,乳癌治療が終了した乳癌患者の妊娠中乳癌フォローアップ検査として,問診・視触診は勧められ,マンモグラフィと乳房超音波検査については施行を考慮してよい。ただし再発を疑うような症状が出現した場合は,他のフォローアップ検査についてただちに適応を考慮し許容される適切な検査を行う8)

参考資料

1)キーワード

英語:
breast cancer,breast screening,pregnancy
患者の希望:
QOL,satisfaction,patient preference,decision conflict,decision aid,regret
経済:
cost,economic burden,financial toxicity

2)参考文献