和文用語(五十音順) |
アドヒアランス | 患者が積極的に治療に加わること,または決めた薬の服薬を積極的に行うこと。 |
ウォッシュアウト期間 | 治験開始の前に,患者が服用していた薬の投与をやめる期間であり,今まで服用していた薬の影響が無くなるために必要な時間。 |
化学療法 | 薬剤の細胞毒性により細胞をアポトーシスに誘導し,抗腫瘍効果を示す。作用機序によりアルキル化剤・白金製剤・代謝拮抗薬・抗癌抗生物質・トポイソメラーゼ阻害薬・微小管作用剤等に分けられる。乳癌術後薬物療法では,多剤併用化学療法が標準的であり,アンスラサイクリン系薬剤,タキサン系薬剤,アルキル化剤(シクロホスファミド),代謝拮抗薬(フルオロウラシル)が中心的に用いられる。 |
感度・特異度 | 感度:ある検査を行い陽性と判断されたときに,本当にその疾患に罹患している確率。特異度:ある検査を行い陰性と判断されたときに,本当にその疾患に罹患していない確率。 |
高濃度乳房 | マンモグラフィ所見で用いられる用語。マンモグラフィ読影では乳房内の乳腺実質の量と脂肪の混在する程度に関する評価として,乳房を脂肪性・乳腺散在・不均一高濃度・高濃度に分類する。高濃度乳房の場合は乳腺実質内に脂肪の混在が少なく,乳癌等の病変検出率は低い。 |
サバイバーシップ | サバイバーとはがん罹患者のことであり,サバイバーシップとはがんの診断や治療中だけではなく,がんを乗り越えたあとの人生すべてにわたり,本人および家族や介護者・友人らが肉体的・精神的・経済的に充実した生活を送ろうとする意思・信念を示す(https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/survivorship?redirect=true)。 |
サブタイプ | 近年の網羅的mRNA解析による遺伝子発現プロファイルにより,乳癌はいくつかのサブタイプに分類されることが明らかになってきた。遺伝発現によるサブタイプ分類は乳癌の予後,薬物治療に対する治療効果予測に有用であり,またホルモン受容体・HER2受容体・Ki-67等の病理学的なバイオマーカーの発現解析とある程度相同性がある。実地臨床では網羅的mRNA解析を実施することは容易ではないため,病理学的な評価を用いて,4つのサブタイプ(luminal A like type・luminal B like type・HER2 enrich type・Triple negative type)に分類し,予後予測や薬物療法選択の根拠としている。 |
事例研究 | 1つもしくは少数の事例に基づいて,実際に起こった現象をもとにデータ収集,統計を行い,詳細に研究すること。 |
若年性乳癌 | 若年で発症する乳癌で,はっきりした定義はないが一般的に35歳未満または40歳未満とされることが多い。 |
術後内分泌療法 | ホルモン受容体陽性乳癌に対し,エストロゲン機能抑制もしくはエストロゲン産生抑制することにより増殖を抑制する治療法。閉経前と閉経後でエストロゲン産生の機序が異なることから標準治療が異なり,閉経前ではタモキシフェン,閉経後ではアロマターゼ阻害薬が第一選択となる。 |
アロマターゼ阻害薬 | 閉経後では副腎や卵巣から産生されるアンドロゲンが脂肪細胞や乳癌組織内でアロマターゼによりエストロゲンに変換され作用する。閉経後乳癌ではこのアロマターゼ阻害もしくは不活化することにより抗腫瘍効果を示す。 |
選択的エストロゲン受容体修飾薬 | selective estrogen receptor modulators;SERM。タモキシフェン,トレミフェン。乳癌細胞等にあるエストロゲン受容体にエストロゲンと競合的に結合することにより抗腫瘍効果を示す。 |
術前・術後薬物療法 | adjuvant systemic therapy。早期乳癌に対し術前・術後に行われる再発リスク低減目的での薬物治療をさす。転移再発に対して行われる薬物治療と区別するため補助薬物療法と呼ばれることもある。化学療法・内分泌療法・分子標的療法が含まれ,再発リスクや治療感受性の評価に基づいて推奨される。 |
シリコンインプラント | 乳房の膨らみを再建するために用いられる人工物。 |
シングルアーム | 比較対象群のない単一群で実施する試験。 |
全生存期間 | overall survival;OS。病状の良悪にかかわらず生存した期間。 |
選択バイアス,セレクションバイアス | 研究対象となる患者選択の偏り。 |
多遺伝子アッセイ | 病理組織の免疫染色での判断だけでなく,がん自体の遺伝子解析により再発リスクを解析する方法。本邦では保険対象外。 |
ティッシュエキスパンダー | 一次二期再建で用いられる組織拡張器。乳癌切除後に挿入し,皮膚伸展のために術後定期的に拡張していきインプラントを挿入するスペースを確保する。 |
乳房再建 | 乳房全切除術後にシリコンインプラントや筋皮弁(自家組織)を用いて乳房の整容性・膨らみを作る術式。 |
ピアサポート | 同じ体験をした仲間(ピア)が相互に助け合う(サポート)こと。 |
費用対効果 | かけた費用に対して得られる望ましい効果。 |
病的バリアント | 原因遺伝子に変異があること。ここではBRCA遺伝子の特定の部位(乳癌や卵巣癌になるリスクが高くなるということが分かっている部位)に変異があること。 |
分子標的薬 | 特定の受容体に作用してがん細胞のみに抗腫瘍効果をもたらす薬剤。通常の化学療法とは異なり,薬剤特有の副作用が起こることが知られている。乳癌ではHER2陽性乳癌に対し抗HER2剤が標準治療として用いられるほか,血管内皮増殖因子であるVEGFに作用する血管新生阻害薬が用いられることもある。 |
トラスツズマブ | 抗HER2ヒト化モノクローナル抗体。HER2受容体陽性乳癌の術前・術後薬物療法,転移再発治療に用いられる。 |
ペルツズマブ | HER2のヘテロダイマー形成を阻害する抗体薬。トラスツズマブ,タキサン系薬剤との併用療法がHER2受容体陽性乳癌の転移再発治療に用いられる。 |
ラパチニブ | HER1/2選択的チロシンキナーゼ阻害薬。HER2受容体陽性乳癌の転移再発治療に用いられる。 |
ホルモン受容体 | hormone receptor;HR。エストロゲン受容体,プロゲステロン受容体を併せてホルモン受容体と呼ぶ。エストロゲンはエストロゲン受容体に結合し,DNAの転写制御,核外におけるシグナル伝達の活性化に関与する。乳癌細胞の核にエストロゲン受容体もしくはプロゲステロン受容体の発現が免疫染色で認められる場合“ホルモン受容体陽性乳癌”と呼ぶ。 |
無再発生存期間 | relapse-free survival;RFS。がん治療後に再発がない状態で生存している期間。 |
無増悪生存期間 | progression-free survival;PFS。治療中や治療後にがんの進行がない状態で生存している期間。 |
無病生存期間 | disease-free survival;DFS。がん治療後に再発がなく,他の病気もない状態で生存している期間。 |
リスク低減卵管卵巣摘出術 | risk reducing salpingo-oophorectomy;RRSO。遺伝性乳癌卵巣癌症候群の患者に対し卵巣癌になる前に行われる予防切除術。 |
臨床病期(ステージ) | Stage。身体所見・画像所見等で評価される腫瘍径(tumor;T)・リンパ節転移状況(lymph node;N)・遠隔転移状況(metastasis;M)により0~IV期までに決定される。臨床病期と後述する病理学的因子により治療方針が決定される。 |
欧文用語(アルファベット順) |
ASCO | American Society of Clinical Oncologyの略。米国臨床腫瘍学会。 |
BRCA | がん抑制遺伝子の一つで,この変異により乳癌や卵巣癌を引き起こしやすいことが分かっている。 |
CI | confidence intervalの略。信頼区間。統計学的用語で,母数がどの数値の範囲にあるかを確率的に示す方法であり,通常信頼水準と信頼区間で表記される。‘95%信頼区間がX-Y’とは,その母数の95%があるX-Yの間に存在することを示す。 |
dose-dense療法 | 投与間隔を短縮し薬剤の治療強度を強めて行う投与方法。 |
EBCTCG | Early Breast Cancer Trialists’Collaborative Groupの略。手術可能乳癌に関する第Ⅲ相ランダム化比較試験の個別データを収集し,メタアナリシスを行う研究グループ。 |
ESHRE | European Society of Human Reproduction and Embryologyの略。ヨーロッパ生殖医学会。 |
G-CSF製剤 | 顆粒球コロニー刺激因子:granulocyte-colony stimulating factorの略で,化学療法に伴う好中球減少に対して用いられる薬剤。 |
HER2 | human epidermal growth factor receptor 2の略。細胞表面にある受容体型チロシンキナーゼであり,HER2蛋白をコードする遺伝子は17番染色体に存在する。HER2遺伝子過剰増幅あるいはHER2蛋白の過剰発現が認められる乳癌は“HER2受容体陽性乳癌”と呼ばれ,HER2蛋白を標的とした分子標的療法(抗HER2治療)の治療対象となる。 |
IBCSG | International Breast Cancer Study Groupの略。国際的な臨床試験グループの一つ。 |
ICRP | International Commission on Radiological Protectionの略。国際放射線防護委員会。 |
NCCN | National Comprehensive Cancer Networkの略。米国の主要ながんセンターで構成されるネットワークであり,がん領域における治療や研究・教育や生活の質,治療効果等を発展させることと目的としている。 |
POSITIVE試験 | 2014年からIBCSGで行われている臨床試験で,妊娠を希望するホルモン感受性乳癌の若年女性における妊娠転帰および内分泌療法中断の安全性を評価する試験。A study evaluating Pregnancy, disease Outcome and Safety of Interrupting endocrine Therapy for premenopausal women with endocrine responsIVE breast cancer who desire pregnancy。 |
SEER | Surveillance,Epidemiology and End Results Programの略。国立がん研究機関(National Cancer Institute;NCI)による米国の地域がん登録システムで,罹患・死亡・生存率が毎年計測されている。 |