乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン

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用語集

生殖医療用語

和文用語(五十音順)
ガラス化凍結法胚(受精卵)・未受精卵子を凍結する方法の一つで,10,000℃/分以上で急速に凍結する方法。近年,卵巣組織凍結にも応用されている。
挙児妊娠・出産により生児を得ること。挙児希望とは妊娠・出産を希望すること。
月経回復率治療等で一時期月経が止まった場合,周期的に月経が再開する割合。
顕微授精intracytoplasmic sperm injection;ICSI。卵細胞質内精子注入法。
原始卵胞primordial follicle。生まれつき卵巣に存在する卵胞であり,胎内で500万~700万存在し,出生時約100万~200万になる。通常休眠状態にあり,月経周期毎に一部が選択され活性化して発育を開始し,一次卵胞・二次卵胞等の未成熟卵胞を経て成熟卵胞に発達し排卵される。
抗ミューラー管ホルモンanti Mullerian hormone;AMH。卵巣で前胞状卵胞と小胞状卵胞から分泌され,原始卵胞からの一次卵胞への発育を調整している。原始卵胞から発育する卵胞の数を反映し,卵巣予備能の指標の一つと考えられている。
ゴナドトロピン療法controlled ovarian stimulation with letrozole supplementation;COSTLES。卵巣刺激方法の一つで,レトロゾールやタモキシフェンを併用して卵巣刺激を行う方法。
催奇形性ある物質が生物の発生段階において奇形を生じさせる性質や作用のこと。
産褥期出産後のカラダが元の状態に戻るまでのおよそ6~8週間の期間。
死後生殖凍結保存された配偶子・胚を死後に生殖補助医療技術により利用すること。
ショート法アゴニスト法の一つ。採卵周期の短期間GnRHアゴニストを使用する採卵方法。
生児獲得率妊娠成立だけでなく,分娩にまで至る割合。
成熟卵胞mature(Graafian)follicle。原始卵胞から約6カ月をかけて発育し,排卵に至るまでの卵胞のこと。グラーフ卵胞と呼ばれている。
生殖心理カウンセラー生殖医療において様々な心理的困難を抱える方を支援する生殖心理の専門家,心理士。
生殖補助医療assisted reproductive technology;ART。自然妊娠が困難な場合に,卵巣刺激や体外受精・顕微授精・胚移植等の医療技術を用いて妊娠・出産を支援する医療。
早発卵巣不全premature ovarian insufficiency;POI。日本女性の平均閉経年齢は約50歳であるが,40歳未満で卵巣機能が低下し無月経になった状態をさす。染色体異常,自己免疫異常,医原性,環境因子等の影響が考えられる。40歳未満で卵胞が枯渇し自然閉経を迎えた状態を早発閉経と,卵胞がまだ存在するにもかかわらず下垂体のゴナドトロピンへの反応性が低下し無排卵・無月経を呈するゴナドトロピン抵抗性卵巣症候群の両者を含む。一般に高ゴナドトロピン血症,40歳未満の続発性無月経をいう。
体外受精・胚移植in vitro fertilization(IVF)-embryo transfer(ET)。卵子と精子を体外に取り出して受精させ,胚(受精卵)を子宮腔に移植すること。
代理懐胎代理母(traditional surrogacy)と借り腹(gestational surrogacy)に分けられる。夫婦の胚(受精卵)を母体の子宮に戻すのではなく,他人の子宮に戻し代理出産することを借り腹,夫の精子と代理母の卵子の人工授精ののちに代理出産することを代理母という。
着床前診断移植前に受精卵(胚盤胞)の遺伝子・染色体を検査し,移植する胚をあらかじめ選別すること。流産・死産の可能性や染色体異常を有する児の出生率を低下させるための技術。
調節卵巣刺激controlled ovarian stimulation;COS。体外受精を行う目的で,薬物で卵巣刺激を行い採卵する方法。アゴニスト法(ロング法,ショート法),アンタゴニスト法等がある。
低刺激採卵卵巣刺激を少なくして採卵する方法。卵巣刺激は少ないが採卵できる数が限られている。調節卵巣刺激による採卵の対語。
低出生体重児出生時の体重が2,500 g未満の新生児。
ドナー精子男性から不妊治療クリニックや精子バンクに対して提供された精子で,主に無精子症による不妊や,妊娠を希望する独身女性が不妊治療を受ける際に人工授精で使用される第三者の精子のこと。
妊娠率通常,一度の胚移植により妊娠成立する割合。
妊孕性子孫を残す能力。
受精卵。精子と卵子が受精したもの。
配偶子gamete。精子・卵子。
胚凍結保存(受精卵凍結保存)胚(受精卵)を凍結し保存すること。
排卵誘発注射や内服薬を用いて排卵を促すこと。注射剤にはFSH製剤,hMG製剤,hCG製剤,内服薬にはクロミフェン,シクロフェニル等がある。
プレコンセプション幼少期から性や生殖について正しい情報を知り,将来の妊娠・出産・子育てを含めた生活や健康を妊娠前から考えたり,健康的な生活習慣を知ること。
胞状卵胞数計測antral follicle count;AFC。卵巣の最大断面にある2~10 mmの胞状卵胞の数であり経腟超音波断層法を用いて計測する。
ホルモン補充療法hormone replacement therapy;HRT。閉経期の女性にエストロゲン・プロゲスチンを補充して更年期障害の緩和や骨粗鬆症を治療する目的で行われる。
融解胚移植凍結してある胚(受精卵)を融解して子宮に移植する方法。
卵子凍結保存採卵した卵子を受精させないで凍結保存すること。
卵巣過剰刺激症候群ovarian hyperstimulation syndrome;OHSS。排卵誘発剤の使用により起こる副作用であり,多数の卵胞が成熟することにより卵巣腫大や腹水貯留,乏尿,胸水,稀に血栓症等が起こる。
卵巣機能障害化学療法や骨盤への放射線照射等により卵巣機能が低下すること。女性ホルモンの低下による更年期症状や早期閉経,不妊の原因になる。
卵巣組織凍結保存卵巣組織を一部切除し凍結保存しておくこと。
卵巣予備能原始卵胞(primordial follicle)を成熟させ,排卵する卵巣の機能を表す。原始卵胞の数と質を反映する。原始卵胞数は発育卵胞数に反映されるので,発育卵胞(growing follicle)数を示す指標であるAMH,Inhibin B,FSH,LH,E2,AFC(antral follicle count)等が卵巣予備能の指標として一般的に用いられる。
ランダムスタート法採卵は通常月経周期に合わせて行われるが,月経周期にかかわらず卵巣刺激を行い採卵する方法。
リプロダクティブ・ライツすべてのカップルと個人が子どもの数,その間隔,タイミングを自由にかつ自己の責任で決定し,そのための情報と手段をもち,生殖に関し最高水準の健康を達成する権利(世界保健機関,World Health Organization;WHOより)。
ロング法アゴニスト法の一つ。採卵を行う周期の前の周期から採卵までGnRHアゴニストを使用する採卵方法。
欧文用語(アルファベット順)
CIAchemotherapy induced amenorrheaの略。化学療法随伴性無月経。閉経前女性が,化学療法後に無月経になること。閉経期間については報告により定義が異なるため留意する必要がある。一時的無月経と恒久的無月経がある。
decision aid患者の納得のいく意思決定を行うための,意思決定ガイド,プロセスツール。
FertiPROTEKTドイツ語を母国語とするドイツ,スイス,オーストリアにある70以上の病院によって組織されたがん・生殖医療ネットワーク。がん治療による卵巣機能低下の可能性,妊孕性温存の具体的な方法等に関する情報を提供している(http://www.fertiprotekt.de/)。
FSH卵胞刺激ホルモン。脳下垂体から分泌され卵胞の成長を促す。女性では排卵障害や卵巣の反応性の検査,男性では精巣機能障害のホルモン検査として活用されている。
GnRHゴナドトロピン放出ホルモン。LHとFSHを分泌させるために脳の視床下部から出るホルモン。
GnRHアゴニスト・GnRHアンタゴニスト脳下垂体に働いて卵巣を刺激するホルモンの分泌を抑制,もしくは増強し卵巣の働きに影響を与える薬剤。
LH黄体化(黄体形成)ホルモン。排卵を促し,卵胞を黄体へ変化させる。
LHサージ月経から卵胞期前半は,FSHが上昇し,卵胞発育が促進し,E2が上昇する。卵胞期後半に卵巣から分泌されたE2がピークに達すると,中枢へのポジティブ・フィードバックによりLH,FSHが一過性に大量放出される。これをLHサージという。LHサージにより卵胞が急速に増大し,卵胞壁が破裂し,排卵に至る。
regret score誤った選択をしたことの自覚,または想像したときの感情的嫌悪を数値化したもの。
shared decision making医療においてか患者と医者両者が医学的な意思決定プロセスを共同で行うこと。協働意思決定。
triggerここでは排卵のきっかけ(引き金)となる薬物投与。

乳腺関連用語

和文用語(五十音順)
アドヒアランス患者が積極的に治療に加わること,または決めた薬の服薬を積極的に行うこと。
ウォッシュアウト期間治験開始の前に,患者が服用していた薬の投与をやめる期間であり,今まで服用していた薬の影響が無くなるために必要な時間。
化学療法薬剤の細胞毒性により細胞をアポトーシスに誘導し,抗腫瘍効果を示す。作用機序によりアルキル化剤・白金製剤・代謝拮抗薬・抗癌抗生物質・トポイソメラーゼ阻害薬・微小管作用剤等に分けられる。乳癌術後薬物療法では,多剤併用化学療法が標準的であり,アンスラサイクリン系薬剤,タキサン系薬剤,アルキル化剤(シクロホスファミド),代謝拮抗薬(フルオロウラシル)が中心的に用いられる。
感度・特異度感度:ある検査を行い陽性と判断されたときに,本当にその疾患に罹患している確率。特異度:ある検査を行い陰性と判断されたときに,本当にその疾患に罹患していない確率。
高濃度乳房マンモグラフィ所見で用いられる用語。マンモグラフィ読影では乳房内の乳腺実質の量と脂肪の混在する程度に関する評価として,乳房を脂肪性・乳腺散在・不均一高濃度・高濃度に分類する。高濃度乳房の場合は乳腺実質内に脂肪の混在が少なく,乳癌等の病変検出率は低い。
サバイバーシップサバイバーとはがん罹患者のことであり,サバイバーシップとはがんの診断や治療中だけではなく,がんを乗り越えたあとの人生すべてにわたり,本人および家族や介護者・友人らが肉体的・精神的・経済的に充実した生活を送ろうとする意思・信念を示す(https://www.cancer.gov/publications/dictionaries/cancer-terms/def/survivorship?redirect=true)。
サブタイプ近年の網羅的mRNA解析による遺伝子発現プロファイルにより,乳癌はいくつかのサブタイプに分類されることが明らかになってきた。遺伝発現によるサブタイプ分類は乳癌の予後,薬物治療に対する治療効果予測に有用であり,またホルモン受容体・HER2受容体・Ki-67等の病理学的なバイオマーカーの発現解析とある程度相同性がある。実地臨床では網羅的mRNA解析を実施することは容易ではないため,病理学的な評価を用いて,4つのサブタイプ(luminal A like type・luminal B like type・HER2 enrich type・Triple negative type)に分類し,予後予測や薬物療法選択の根拠としている。
事例研究1つもしくは少数の事例に基づいて,実際に起こった現象をもとにデータ収集,統計を行い,詳細に研究すること。
若年性乳癌若年で発症する乳癌で,はっきりした定義はないが一般的に35歳未満または40歳未満とされることが多い。
術後内分泌療法ホルモン受容体陽性乳癌に対し,エストロゲン機能抑制もしくはエストロゲン産生抑制することにより増殖を抑制する治療法。閉経前と閉経後でエストロゲン産生の機序が異なることから標準治療が異なり,閉経前ではタモキシフェン,閉経後ではアロマターゼ阻害薬が第一選択となる。
アロマターゼ阻害薬閉経後では副腎や卵巣から産生されるアンドロゲンが脂肪細胞や乳癌組織内でアロマターゼによりエストロゲンに変換され作用する。閉経後乳癌ではこのアロマターゼ阻害もしくは不活化することにより抗腫瘍効果を示す。
選択的エストロゲン受容体修飾薬selective estrogen receptor modulators;SERM。タモキシフェン,トレミフェン。乳癌細胞等にあるエストロゲン受容体にエストロゲンと競合的に結合することにより抗腫瘍効果を示す。
術前・術後薬物療法adjuvant systemic therapy。早期乳癌に対し術前・術後に行われる再発リスク低減目的での薬物治療をさす。転移再発に対して行われる薬物治療と区別するため補助薬物療法と呼ばれることもある。化学療法・内分泌療法・分子標的療法が含まれ,再発リスクや治療感受性の評価に基づいて推奨される。
シリコンインプラント乳房の膨らみを再建するために用いられる人工物。
シングルアーム比較対象群のない単一群で実施する試験。
全生存期間overall survival;OS。病状の良悪にかかわらず生存した期間。
選択バイアス,セレクションバイアス研究対象となる患者選択の偏り。
多遺伝子アッセイ病理組織の免疫染色での判断だけでなく,がん自体の遺伝子解析により再発リスクを解析する方法。本邦では保険対象外。
ティッシュエキスパンダー一次二期再建で用いられる組織拡張器。乳癌切除後に挿入し,皮膚伸展のために術後定期的に拡張していきインプラントを挿入するスペースを確保する。
乳房再建乳房全切除術後にシリコンインプラントや筋皮弁(自家組織)を用いて乳房の整容性・膨らみを作る術式。
ピアサポート同じ体験をした仲間(ピア)が相互に助け合う(サポート)こと。
費用対効果かけた費用に対して得られる望ましい効果。
病的バリアント原因遺伝子に変異があること。ここではBRCA遺伝子の特定の部位(乳癌や卵巣癌になるリスクが高くなるということが分かっている部位)に変異があること。
分子標的薬特定の受容体に作用してがん細胞のみに抗腫瘍効果をもたらす薬剤。通常の化学療法とは異なり,薬剤特有の副作用が起こることが知られている。乳癌ではHER2陽性乳癌に対し抗HER2剤が標準治療として用いられるほか,血管内皮増殖因子であるVEGFに作用する血管新生阻害薬が用いられることもある。
トラスツズマブ抗HER2ヒト化モノクローナル抗体。HER2受容体陽性乳癌の術前・術後薬物療法,転移再発治療に用いられる。
ペルツズマブHER2のヘテロダイマー形成を阻害する抗体薬。トラスツズマブ,タキサン系薬剤との併用療法がHER2受容体陽性乳癌の転移再発治療に用いられる。
ラパチニブHER1/2選択的チロシンキナーゼ阻害薬。HER2受容体陽性乳癌の転移再発治療に用いられる。
ホルモン受容体hormone receptor;HR。エストロゲン受容体,プロゲステロン受容体を併せてホルモン受容体と呼ぶ。エストロゲンはエストロゲン受容体に結合し,DNAの転写制御,核外におけるシグナル伝達の活性化に関与する。乳癌細胞の核にエストロゲン受容体もしくはプロゲステロン受容体の発現が免疫染色で認められる場合“ホルモン受容体陽性乳癌”と呼ぶ。
無再発生存期間relapse-free survival;RFS。がん治療後に再発がない状態で生存している期間。
無増悪生存期間progression-free survival;PFS。治療中や治療後にがんの進行がない状態で生存している期間。
無病生存期間disease-free survival;DFS。がん治療後に再発がなく,他の病気もない状態で生存している期間。
リスク低減卵管卵巣摘出術risk reducing salpingo-oophorectomy;RRSO。遺伝性乳癌卵巣癌症候群の患者に対し卵巣癌になる前に行われる予防切除術。
臨床病期(ステージ)Stage。身体所見・画像所見等で評価される腫瘍径(tumor;T)・リンパ節転移状況(lymph node;N)・遠隔転移状況(metastasis;M)により0~IV期までに決定される。臨床病期と後述する病理学的因子により治療方針が決定される。
欧文用語(アルファベット順)
ASCOAmerican Society of Clinical Oncologyの略。米国臨床腫瘍学会。
BRCAがん抑制遺伝子の一つで,この変異により乳癌や卵巣癌を引き起こしやすいことが分かっている。
CIconfidence intervalの略。信頼区間。統計学的用語で,母数がどの数値の範囲にあるかを確率的に示す方法であり,通常信頼水準と信頼区間で表記される。‘95%信頼区間がX-Y’とは,その母数の95%があるX-Yの間に存在することを示す。
dose-dense療法投与間隔を短縮し薬剤の治療強度を強めて行う投与方法。
EBCTCGEarly Breast Cancer Trialists’Collaborative Groupの略。手術可能乳癌に関する第Ⅲ相ランダム化比較試験の個別データを収集し,メタアナリシスを行う研究グループ。
ESHREEuropean Society of Human Reproduction and Embryologyの略。ヨーロッパ生殖医学会。
G-CSF製剤顆粒球コロニー刺激因子:granulocyte-colony stimulating factorの略で,化学療法に伴う好中球減少に対して用いられる薬剤。
HER2human epidermal growth factor receptor 2の略。細胞表面にある受容体型チロシンキナーゼであり,HER2蛋白をコードする遺伝子は17番染色体に存在する。HER2遺伝子過剰増幅あるいはHER2蛋白の過剰発現が認められる乳癌は“HER2受容体陽性乳癌”と呼ばれ,HER2蛋白を標的とした分子標的療法(抗HER2治療)の治療対象となる。
IBCSGInternational Breast Cancer Study Groupの略。国際的な臨床試験グループの一つ。
ICRPInternational Commission on Radiological Protectionの略。国際放射線防護委員会。
NCCNNational Comprehensive Cancer Networkの略。米国の主要ながんセンターで構成されるネットワークであり,がん領域における治療や研究・教育や生活の質,治療効果等を発展させることと目的としている。
POSITIVE試験2014年からIBCSGで行われている臨床試験で,妊娠を希望するホルモン感受性乳癌の若年女性における妊娠転帰および内分泌療法中断の安全性を評価する試験。A study evaluating Pregnancy, disease Outcome and Safety of Interrupting endocrine Therapy for premenopausal women with endocrine responsIVE breast cancer who desire pregnancy。
SEERSurveillance,Epidemiology and End Results Programの略。国立がん研究機関(National Cancer Institute;NCI)による米国の地域がん登録システムで,罹患・死亡・生存率が毎年計測されている。