がん治療別

分子標的薬療法の卵巣毒性のメカニズム

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 分子標的薬は、がん細胞にある特定の分子を標的とする薬物の総称です。がん細胞の増殖や生存にかかわる標的分子を制御することで、正常細胞へのダメージを抑えながら、効率よく腫瘍を攻撃する薬物として注目されています。慢性骨髄性白血病に対するイマチニブ(チロシンキナーゼ阻害薬)や、血管新生を抑制するベバシズマブ、乳がん細胞のHER2タンパクの働きをブロックするトラスツマブなど様々な種類があります。

 分子標的治療薬は正常の細胞にダメージを与えにくいため、通常の化学療法よりも副作用が少ないといわれていますが、皮膚障害や薬剤性肺炎など、特有の副作用が起こる可能性があります。卵巣に与える影響について、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドラインには、ベバシズマブに中等度の卵巣毒性(治療後、30〜70%の無月経をきたす)があるとされています。また、チロシンキナーゼ阻害薬は、細胞内の情報伝達を担うたんぱく質に作用し、癌細胞の増殖を抑制するため、正常細胞の需要な細部内伝達にも影響を与える可能性があり、動物実験で胚生存の低下や着床障害などがみられることが報告されています。しかし、分子標的治療薬が生殖機能に与える影響についての報告はまだ少なく、その機序についても明らかにはなっていません。

東京大学医学部 産婦人科
原田 美由紀、高橋 望

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