がん治療別

子宮・卵巣への放射線照射が妊孕性に及ぼす影響

 小児・若年がん患者の治療において化学療法・放射線治療を組み合わせることで生存率が大幅に向上しました。一方で、治療目的に行なわれる化学療法・全身放射線照射や骨盤内の放射線照射により卵巣機能が低下する可能性があることがわかっています。化学療法によるダメージは卵巣のみでありますが、骨盤内に照射された放射線治療では卵巣のみならず子宮に対してもダメージを与えます。

 放射線照射はがんを制圧するためには非常に有効な治療法ですが、一方でこういった治療に伴う合併症があることも理解しておく必要があります。ここでは、放射線治療による子宮、卵巣へのダメージについて触れたいと思います。

 まず、子宮・卵巣の主な機能について説明します。脳の視床下部-下垂体からの司令により卵巣からエストロゲン、プロゲステロンホルモンが分泌されます。それにより子宮内膜が増殖期から分泌期へと変化し、妊娠に適した状態に変化します。それに加えて卵巣からは排卵期に卵子が排卵します。

 放射線照射はこれらの機能にダメージを与えることになります。

1.子宮への影響

 初潮が開始する前の子宮は母指頭大くらいしかありませんが、思春期を迎え、月経が開始されると子宮の血管構造が変化しホルモンの影響も加わり、成人では鶏卵大から鵞卵大に成長し、妊娠するための準備が整います(図1)。

 放射線照射による子宮への影響は不可逆的となる可能性があります。具体的には小児期における放射線被曝では、子宮体積が小さくなり、子宮筋層も線維化し、さらに子宮内膜の萎縮と機能不全を引き起こします1)。さらに成人期の骨盤放射線照射では子宮頸部も萎縮し、膣壁が癒着することで、膣から子宮の頸部が視認できないほどになることもあります。
成人期では > 45 Gy、小児期では > 25 Gyの照射で妊娠への影響の可能性があり、照射後の妊娠については慎重に検討する必要が出てきます1)、2)。妊娠中における放射線照射の影響としては、胎盤障害(例えば、胎盤の付着物または胎盤の機能障害)、胎盤の位置異常、早産および流産につながる可能性があります2)。まれではありますが、子宮破裂のリスクも増加させる可能性があります3)。

 小児および思春期がんサバイバーの将来的な妊娠後の産科転帰を、がんの既往のない女性のそれと比較すると、がんサバイバーでは、胎児奇形のリスクは上昇しません1)、4)が、2,500グラム未満の低出生体重児や未熟低出生体重児になるリスクが上昇します5)。

 さらに、2009年のBritish Cancer Survivorの研究では、腹部放射線療法で治療された小児がんの女性生存者は早産のリスクが3倍増加し、低出生体重のリスクが2倍増加し、流産のリスクがわずかに増加したという報告もあります6)。

 以上から、小児期および若年期に放射線照射を受けることで、子宮は不可逆的な影響を受ける可能性があります。その影響は子宮内膜のみならず子宮筋層にも及ぶことで、不妊や妊娠後の早産などの合併症を起こす可能性が高くなります。放射線治療を受けたあとでの妊娠出産については、専門の医師に相談してください。

2.卵巣への影響

 女性の卵子は男性の精子と異なり、卵子が新たに作られ続けることはありません。出生時、女性の卵巣には約100万個の再生不可能な原始卵胞(卵子のたまご)が含まれており、その数は主に細胞死と閉鎖により経時的に減少します7)。人の卵母細胞の数は胎児期(妊娠中期頃)に最大600〜700万個あり、量と質が次第に減少し、再生しません。出生時の卵母細胞は約100万〜200万個、思春期の30万〜50,000個、閉経の平均年齢である51歳の1000個になります8)。女性の卵母細胞の量と質とは、親からの遺伝的要因(持って生まれたもの)、ライフスタイル・環境、医療処置および疾患(子宮内膜症、卵巣手術、化学療法、放射線療法など)を含むいくつかの要因の影響を受けます。量についてはその名の通り、卵子の総数を指しますが、質というのは出生後年月が経つほど卵の状態が悪くなり、これにより高齢になればなるほど、妊娠率が低下する一因となります。

 放射線治療により腸管など一部の組織ではその損傷は可逆的ですが、卵巣では不可逆的なものとなります。つまり、そのダメージの程度により残存する卵子数が異なってきます。放射線療法は、細胞増殖を制御する能力があり、DNA複製が活発ながん細胞は放射線による損傷に対してより脆弱なため一般的な治療として放射線治療が行われているのです。卵母細胞も放射線に対して非常に敏感であり、最初の減数分裂の分裂期で障害をうけ、細胞死に至ります。これまでの報告で卵母細胞は、DNA修復機構が欠如しているため、放射線による遺伝子の損傷を修復できないと考えられていました。しかし、動物モデルで行われた最近の研究では、哺乳動物の卵母細胞は酵素修復能力があり、放射線感受性は発達の程度と密接に関連していることが示されています9)。

 治療の強度によって、すべての卵子が障害を受けるわけではないのですが、実際の治療の場面では、放射線治療は卵巣機能に大きな影響を及ぼします。これは卵胞数の自然な減少を早め、最初に述べた貯蔵された卵子数が一定値を下回ると閉経状態となります。したがって卵巣ホルモン産生の障害、エストロゲン分泌が不十分であることにより子宮機能障害、早期閉経および不妊につながります1)。卵巣で発生する損傷の程度は、患者の年齢(放射線照射時の年齢が若いほど、損傷が大きいほど)、被曝線量、被曝時間、最終的に関連する化学療法などのいくつかの要因に依存します10)。思春期前の年齢では、卵巣は放射線に対して非常に脆弱です。 2 Gy以下の放射線でも未熟な卵母細胞の半分が破壊されると推定され11)、25〜50 Gyで若年女性の3分の1および40歳以上のほとんどすべての女性で早発閉経となり不妊となります12)。さらに、卵巣の放射線被曝によって誘発される卵巣損傷のリスクは、シクロホスファミドなどの化学療法薬と組み合わせることにより増大する可能性があります。一方、放射線治療を受けた後、排卵機能が回復した場合、その卵からの妊娠出産児において奇形率が上昇するなどの報告はありません。

 以上から、卵巣における放射線照射の影響としてはその卵巣の持って生まれた卵子数や放射線量などがあり、治療後の影響として早発閉経のリスクが高いことを知っておいてもらいたいです。

治療

 子宮と卵巣は非常に近接した場所にあるため、基本的には放射線照射量は同じと考えるべきです。ですので、放射線治療に伴う影響としては、子宮性および卵巣性無月経となります。治療としてはまず卵巣機能不全に伴うホルモン欠落症状への対応が優先されますのでホルモン補充療法をはじめに行う必要があります。ホルモン補充療法を行っても、月経様の破綻出血が起こらない場合は、子宮内膜のダメージや癒着などが原因と考えられますので、妊娠を考えた際への影響を考えて生殖医療の専門の医師に御相談ください。

京都大学医学部 婦人科学産科学教室
堀江 昭史

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図1

引用文献

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