小児・ AYA 世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業 と、 日本がん・生殖医療登録システム( JOFR )について
2021/06/29(火)
小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業と、
日本がん・生殖医療登録システム(JOFR)について
令和3年6月28日
特定非営利活動法人日本がん・生殖医療学会
理事長 森重健一郎
一般社団法人日本がん・生殖医療学会
理事長 鈴木 直
JOFR管理運営委員会
委員長 髙井 泰
1.本事業開始までの経緯
小児・AYA世代がん患者への妊孕性温存に係わる経済的負担に対する支援は、2016年に滋賀県で初めて小児・AYA世代がん患者への妊孕性温存に対する公的助成金制度が開始されましたが、自治体レベルの取り組みでは、自治体ごとに施策の優先順位が異なるため、がん・生殖医療に関わるがん患者に対する費用助成の実施やその条件、助成額の差が課題となっていました。国内すべての患者に均等な機会を与えるという意味で、特定不妊治療費助成金の制度と同様に、国が小児・AYA世代がん患者への妊孕性温存に係わる経済的負担に対する支援を行うことが望ましいことから、日本がん・生殖医療学会では、日本産科婦人科学会、日本生殖医学会、並びに日本泌尿器科学会と合同で田村憲久厚生労働大臣に対して、「小児・AYA世代がん患者の治療に伴う生殖機能低下に対応するための妊孕性温存に係る経済負担に対する国の支援に関する要望書」を2020年11月17日に提出しました。その後、2021年初頭の厚生労働省による2回の有識者会議並びに第75回がん対策推進協議会での議論を経て、国は小児・AYA世代がん患者等に対する妊孕性温存に係る経済的支援を2021年4月1日から開始しました。
がん・生殖医療は新しい領域であり、本邦におけるがん患者に対する妊孕性温存に関するエビデンスが少ないこと、さらに長期保管後のアウトカムの検証が必要となることから、国は、肝がん・重度肝硬変治療研究促進事業と同様に、又特定不妊助成金制度と異なる「研究促進事業」として経済的支援を行うことを決定しました(厚生労働行政推進調査事業費補助金がん対策推進総合研究事業「厚労科研費(がん政策研究事業)小児・AYA世代がん患者に対する長期生殖機能温存に関わる心理支援体制の均てん化および適切な長期検体温存方法の提案に向けた研究」)。
2.妊孕性温存実施施設への参加要件
国の研究事業となる小児・AYA世代がん患者等に対する妊孕性温存に係る経済的支援に参加できる妊孕性温存実施施設は、以下の4つの要件への参加が必須となります。
関わる心理支援体制の均てん化および適切な長期検体温存方法の提案に向けた研究」研究班への参加
② 日本産科婦人科学会および日本泌尿器科学会が定める新しい施設認定制度への参加
③ 各自治体が認可する妊孕性温存実施施設としての参加
④ 日本がん・生殖医療学会が管理する日本がん・生殖医療登録システム(JOFR: Japan Oncofertility Registry)による登録事業への参加(ただし、日本がん・生殖医療学会への入会は必須とはならない)
3.現在稼働中の「旧JOFR」と「新JOFR」の構築
現行の日本がん・生殖医療登録システム(旧JOFR)は2018年から稼働しており、現在100を超える妊孕性温存実施施設から5000例を超える症例登録を戴いております。
2021年4月から「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」による妊孕性温存治療に対する公的助成制度が開始されましたが、この公的助成の要件として、妊孕性温存治療施設はJOFRへの参加が必須となっております。
この研究促進事業に対応した「新JOFR」は2021年4月以降の妊孕性温存実施症例を対象としており、患者さんから氏名・住所を得て、全国がん登録のデータを利用することや、患者サイトを用いて情報を入力して戴くことをご同意戴く必要があります。
「新JOFR」については、現在新事業対応用のシステムを構築しており、2021年秋から稼働予定となっておりますので、準備ができましたら、改めて新JOFRへのご参加をご案内申し上げます。また、2021年4月以降に妊孕性温存を実施した患者さんに対しては、公的助成の要件として、「新JOFR」にご協力戴くこと、即ち、旧JOFRの症例登録に加えて、氏名・住所のご提供、全国がん登録の利用、患者サイトへの入力をお願いすることについて、予めお伝え戴ければと存じます。同意取得体制が整いましたら、改めてご案内申し上げます。
新・旧2つのJOFRを運用することによって、わが国のがん・生殖医療のアウトカム(予後、妊娠率etc)を発信して参りたいと考えております。
2021年3月以前の症例や、妊孕性温存を実施しなかった症例を有する施設におかれましては、引き続き現行(旧)JOFRへのご参加を心よりお願い致したく存じます。
本支援によって、がん患者の身体的・精神的苦痛を軽減し、がんサバイバーシップ向上に繋がり、本研究事業が「将来、こどもを産み育てる可能性(選択肢)を残し、がん患者が希望をもってがんと闘うことができる、小児・AYA世代がん患者への特定治療助成支援事業」となり得ると考えております。会員の皆様におかれましては、本研究事業へのご協力をいただきますよう何卒宜しくお願い申し上げます。