乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン

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BRCA1/2病的バリアントの乳癌患者が生殖機能温存および妊娠・出産を希望する場合に配慮すべきことは?

ステートメント
がんの治療,妊孕性温存に追加して,遺伝カウンセリングに関する情報提供が必要なこと(児に病的バリアントが遺伝する可能性,近親者のスクリーニングについて等)に配慮する。また,本邦では現時点で着床前診断によりBRCA病的バリアントを有する胚を同定できないこと,BRCA病的バリアント保持者に対する生殖医療が治療や予後に及ぼす影響は未解明であること,妊孕性温存のために凍結した卵巣を移植した場合の将来的な卵巣癌の発症リスクは未解明であり,その妥当性が明らかでないことに留意する。
さらにリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)が推奨されること,およびRRSOの選択を見越した場合の適切な妊娠時期についての情報提供の必要性がある。

FQの背景

一般的に妊孕性が保たれるとされる40歳以下に乳癌を発症した患者でのBRCA1/2病的バリアント陽性率は31%と比較的高率である。一方,BRCA1/2病的バリアントを有する女性は80歳までに約7割が乳癌に罹患すると報告される。今回生殖可能年齢に乳癌を発症した患者において,BRCA遺伝学的検査で変異陽性と診断された場合に特別に配慮すべき点があるかを検討した。

解説

カウンセリングの現状等について述べられている研究論文の中では,以下の点につき言及されていた。

1)遺伝カウンセリングについて

がんの治療,妊孕性温存に追加して,遺伝カウンセリングに関する情報提供が必要なこと(児に病的バリアントが遺伝する可能性,近親者のスクリーニングについて等)や,本邦では現段階では着床前診断によりBRCA病的バリアントを有する胚を同定できないことが留意点として挙げられていた。

2)BRCA病的バリアント保持者に対する生殖医療について

BRCA病的バリアント保持者に対する生殖医療が治療や予後に対してどの程度影響を及ぼすのかは未だ十分に解明されておらず,妊孕性温存の方法として卵巣凍結を選択した場合には移植した卵巣組織から将来卵巣癌を発症する可能性を否定できず,その妥当性が明らかでないことも示されていた。

3)卵巣・卵管の予防切除について

リスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo-oophorectomy;RRSO)が推奨されること,およびRRSOの選択を見越した場合の適切な妊娠時期についての情報提供の必要性がある。

関連する診療ガイドラインの記載

ESMOガイドラインでは,BRCA病的バリアントの患者が,①卵巣保護と妊孕性の低下をきたすエビデンスはないこと,②RRSO計画前に妊娠・出産を奨励されるべきであること,③RRSOを希望し,妊娠・出産前であれば卵子・胚細胞凍結等について話し合うべきである,と記載があった。

また,④出生前診断や着床前診断についても提示すべきである,と述べられていたが,いずれについても推奨度やエビデンスレベルは低い。④に関しては本邦では認められていない【参照】書籍版P169:
②国内における生殖医療の倫理規範と現状

参考資料

1)キーワード

英語:
BRCA mutation,ART(assisted reproductive technology),IVF-ET(in vitro fertilization and embryo transfer),fertility preservation,ovarian reserve,breast cancer
患者の希望:
QOL,satisfaction,patient preference,decision conflict,decision aid,regret
経済:
cost,economic burden,financial toxicity

2)参考文献