挙児希望の乳癌患者に対し,がん治療医はがん治療による不妊のリスクについて適切に説明するべきとされている。生殖補助医療を用いた妊孕性温存に関する専門家である生殖医療医の介入のメリットについて概説する。
がん治療医は提供される乳癌薬物療法が将来の妊娠・出産に影響を与える可能性がある場合,その治療の与える影響について国内外のガイドラインに基づき情報を提供することが推奨され,さらに妊孕性温存療法に関心がある場合には,速やかに生殖医療医に紹介することが求められる1)~3)。Shimizuらは乳癌専門医への全国調査の結果から再発リスクや生殖専門医との連携不足,診療の時間的制約が妊孕性温存に関する乳癌患者との話し合いにおける主要な障壁となっていることを指摘している4)。
患者は,乳癌の診断を受け止めながら短期間のうちに治療方針の決定を求められている状況にある。その時点で考えられる初期治療の全体像を患者と共有しながら,乳癌治療が治療後の妊娠・出産に与える影響について説明を行うことが望ましい。実際に妊孕性温存を試みる場合には,薬物治療開始前に行う必要があるため,できるだけ早く紹介することによって,妊孕性温存療法の期間を確保することと治療開始を遷延させないことが報告されている5)。
がん治療医にとって優先されることは,診断時より治療計画における薬物療法の意義を患者と共有したうえで,それに伴う生殖機能への影響に関する説明を行い,患者の関心に合わせて生殖医療に速やかに紹介することである。生殖医療医は患者の治療計画を理解したうえで,現在の生殖機能の状態や治療による影響の予測,パートナーの有無等からその患者にあった妊孕性温存の方法について説明を行うことが推奨される。【参照】③学際的チーム
医療の必要性
これらの話し合いを一度ですべて情報提供することは患者の意思決定を困難にすることも指摘されており6),医師以外のヘルスプロバイダーを巻き込みながら回数を重ねて話し合いを進めることが望ましい1)。
自施設内に生殖医療医が介在できない場合には,がん治療医と生殖医療医が円滑に連携するために,地域における医療連携の構築が重要である7)8)。日本がん・生殖医療学会のホームページからも情報を得ることができる。
適切な時期に個々の患者に沿った情報提供は,妊孕性に関する意思決定を促進する6)9)。さらに,患者が適切な知識をもつことが有意に意思決定の葛藤の軽減と関連したことが認められている10)。その一方で,患者のニーズに合った情報提供や十分な選択肢が提供されない場合には,反対に葛藤を助長することが指摘されている11)。
生殖年齢にある女性がん患者を対象とした後方視的研究からは,妊孕性に関する説明はがん治療医に加えて生殖医療のチームから行われたほうが,がん治療医のみからと比較して治療後のregret score(いわゆる後悔)が低下していた9)。さらに,本研究ではがん治療医からの情報提供に加えて,生殖医療での専門的なカウンセリングを受けたほうが,その後の生活の満足度が有意に高いことを指摘しているが,長期的なQOLへの影響については明らかな差は認められていない。
以上より,妊孕性温存療法の実施の有無にかかわらず,がん治療医のみよりも生殖医療医が介入し情報提供を行うことが,患者の満足度や意思決定を促進するために推奨される。