妊娠中の乳癌患者が,根治性と児の安全以外に整容性も希望した場合には,腫瘍が小さく産後に温存乳房照射を遅延なく行えるときには,限定的に乳房温存療法が考慮される。しかし,妊娠初期,中期,もしくは腫瘍が大きく広がりの評価が困難な場合には乳房全切除と乳房再建を検討する。再建時期は乳房全切除術時と同時(一次)か別か,再建方法としてティッシュエキスパンダー(tissue expander;TE)やシリコン等の人工物を用いるか自家組織を用いるか,の選択があり,各々の選択毎の乳房再建のアウトカムと出産転帰に及ぼす影響について患者に情報提供することは重要である。妊娠中の乳癌患者が乳癌の根治性とともに整容性を求めることはもはやタブーではない。妊娠中というだけで乳房再建を受ける機会が損なわれることがあってはならないが,妊娠中の乳房全切除と同時に再建を行い,安全性を評価した症例集積はあるものの少数例での報告であり,実際の現場では慎重に判断されるべきであろう。本FQでは,妊娠中の乳癌患者の乳房再建のリスクと有用性について解説する。
妊娠中に乳房再建術を受けた患者の妊娠転帰を報告した文献は,観察研究(コホート研究)が2編あった1)~4)。イタリアのEuropean Institute of Oncologyからの妊娠中の乳癌78例のコホート研究1)2)では,妊娠中(平均妊娠週数16週)に乳房全切除術を受けた22例のうち12例がTE挿入,1例がシリコンインプラント挿入による同時乳房再建術を受けており,1例は患者の選択で中絶したが,11例は妊娠中にTEを拡張させて出産しており,産科的な問題はなかったと報告されている。また,米国Dana-Farber Cancer Centerからの研究3)4)でも,妊娠初期または中期に乳房全切除術を受けた29例のうち10例が同時にTE挿入による乳房再建を受けており,妊娠経過および分娩時,児の健康には問題を認めなかったと報告されている。
「整容性」を評価したRCT,非ランダム化試験(非RCT,分割時系列解析,前後比較研究),観察研究(コホート研究,症例対照研究,横断研究),事例研究は存在しなかった。一般的に,妊娠経過に伴って健側乳房には生理的な変化が起こるため,妊娠中の同時一期乳房再建で対称性を得ることは困難と考えられるため,妊娠中の乳房再建はTE挿入にとどめ,出産後の乳房の変化に合わせて人工物あるいは自家組織での再建を完成させるのがよいと考えられる。
「合併症」については前述のイタリア1)2)と米国3)4)のコホート観察研究から,妊娠中のTE挿入による同時再建では手術時間,出血量の増加は軽微であり,肺塞栓,創感染といった合併症もなく,母体と胎児への影響はなかったとしている。一方,自家組織による同時乳房再建については,手術時間の延長や出血量の増加,術後合併症のリスクを考慮すると,妊娠中の乳房再建としては避けるべきと記載があった。
「費用」について評価されているRCT,非ランダム化試験(非RCT,分割時系列解析,前後比較研究),観察研究(コホート研究,症例対照研究,横断研究),事例研究は存在しなかったが,すべて保険適用範囲になることから大きな影響はないものと考えられる。
ASCO,ESMO,NCCNのガイドラインには,妊娠中の乳房再建に関する記載はなかった。