乳癌患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療ガイドライン

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妊娠中の乳癌患者に内分泌療法を行うことは安全か?

ステートメント
妊娠中の内分泌療法は,胎児奇形を増加させるため,行うべきではない。

BQの背景

妊娠期乳癌においてはまず,妊娠継続を選択し胎児,母体への影響を考慮し乳癌治療を行うか,もしくは妊娠継続を諦め,人工妊娠中絶を選択したうえで乳癌に対する標準治療を行うかのいずれかを選択しなければならない。ここでは,妊娠継続を選択し乳癌治療を行う際の内分泌療法について検討する。閉経前乳癌患者に対する内分泌療法にはタモキシフェンが用いられるが,タモキシフェンの内服により催奇形性があることが知られている。ここでは,妊娠中に内分泌療法を行った場合の胎児への安全性,また母体への影響について文献検索から検討した。

解説

1)妊娠中の内分泌療法による胎児への影響

Schuurmanら1)によるレビューによると,文献検索から妊娠中にタモキシフェンを内服していた238例中,胎児のアウトカムが追える167例のうち21例に異常発育が認められたと報告されている(12.6%)。これは,胎児発育異常が一般的には3.9%と報告されていることに比べ高いと考えられる。

多くの症例報告から,頭蓋・顎顔面形成異常2)3),外性器形成不全4)等のリスクが上昇することが報告されており,胎児に染色体異常を認めていないことからタモキシフェンの催奇形因子による胎児の発達・形成異常が原因と考えられている5)。特に,器官形成期である妊娠前期にタモキシフェンを内服した際に胎児異常のリスクが高くなると考えられる。

GnRHアゴニストに関しては,術後内分泌療法としてGnRHアゴニスト投与開始後に妊娠が判明したという症例報告がある。妊娠16週6)と妊娠25週7)の時点までGnRHアゴニストを投与されたが,胎児に明らかな異常は認めなかった。しかしながら,安全性に関するデータとしては不十分であり,妊娠中に投与する絶対的な理由がない場合は,投与すべきではないと考えられる。

2)妊娠中の内分泌療法によって得られる予後改善効果

妊娠中におけるタモキシフェンの内服効果に関して,再発乳癌に対する報告を認めるのみである。タモキシフェンによる明らかな縮小効果は認められず,エストロゲンレベルが上昇する妊娠後期では病勢進行を認めている8)

3)患者のQOL

QOLについての報告は認められないが,妊娠期乳癌患者が妊娠継続を選択する場合,胎児へのがん治療の影響は重要なアウトカムになると考えられることから,前述の通り催奇形性が報告されている治療を受けたことへの精神的苦痛は大きいことが想定され,QOLに大きな影響を与えることが考えられる。

参考資料

1)キーワード

英語:
breast cancer during pregnancy,endocrine therapy
患者の希望:
QOL,satisfaction,patient preference,decision conflict,decision aid,regret
経済:
cost,economic burden,financial toxicity

2)参考文献