妊孕性/妊孕性温存について

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がん・生殖医療とは

がん・生殖医療とは、学術的な言葉を用いますと、「がん患者の診断・治療・生存状態を鑑み、個々の患者の生殖能力に関わる選択肢、意思および目標に関する問題を検討する生物医学、社会科学を橋渡しする学際的な一つの医療分野」と言うことができます。

がん・生殖医療とは

平易な言葉で申し上げますと、「がん治療を最優先にすることを大前提として、がん患者さんがお子様をもつことを応援する医療」と言えるでしょう。その中には、がん治療前に妊娠するために必要な能力(妊孕性)を温存するための「妊孕性温存療法」と、がん治療後の妊娠を補助するための「がん治療後の生殖医療」があります。本項目では、主に「妊孕性温存療法」について解説します。

妊孕性について

妊孕性とは、妊娠するために必要な能力のことですが、妊娠するために必要な臓器と機能と言い換えることができます。妊娠するために必要な臓器として、女性では子宮や卵巣が、男性では精巣が挙げられます。その一方、妊娠するために必要な機能として、女性では排卵や月経などの整調な生理の周期に伴う現象が必要ですし、男性であれば性交渉を行うための勃起や射精能力も妊孕性を構成する一部と考えられています(表1)。

さらに、妊娠するために必要なものとして“配偶子”がありますが、これらは遺伝情報(生物の体を構成するための設計図のようなもの)を持っており、生物として種を存続するために必須のものとなります。女性であれば卵巣の中に存在する卵子が、男性であれば精巣の中に存在する精子が配偶子にあたり、生命を次の世代に繋ぐためにとても大切なものといえます。

表1 妊孕性を構成する要素

  女性 男性
臓器 子宮・卵巣 精巣
配偶子 卵子 精子
機能 排卵 射精・勃起

妊孕性温存療法の概要

 手術をはじめ、抗がん剤や放射線治療などの“がん治療”によって妊孕性がダメージを受けることが知られています。そのため、以前より妊孕性を温存するための取り組みがなされてきました。婦人科分野では古典的には子宮や卵巣を温存するための手術方法(子宮頸部円錐切除術や子宮筋腫核出術、卵巣嚢腫切除術など)が考案されてきました。また、男性では神経温存をして性交渉を可能にする手術方法もあり、これも妊孕性温存のひとつといえます。

さらに、近年の生殖医療や凍結技術の発達により、配偶子や受精卵(胚)を凍結することが可能になっています。女性では、未婚の女性のための妊孕性温存の方法として未受精卵子凍結(いわゆる卵子凍結)が、既婚のパートナーがいる女性のためのために受精卵凍結(いわゆる胚凍結)があり、これらはすでに「確立された治療法」として認められています。また、小児患者さんや治療までに時間のない患者さんのために卵巣組織凍結がありますが、この方法はまだ「臨床試験段階の治療法」という位置づけとなっており、今後のさらなる発展が望まれています。男性では、精子を凍結することができ、極めて一般的な方法として認められています。一方、精子を採取できない男児の場合などは精巣組織凍結が考慮されますが、この方法はまだ成功例が報告されておらず、「極めて試験的な治療法」として位置づけられています(図1、2)。

以上のように、がん患者さんが将来お子様をもつことができるよう、希望をもってがん治療にのぞむことができるよう、これらの治療があります。もちろん、これらの選択肢を必ず選択しなければならないわけではなく、妊孕性温存をしないということも一つの選択肢と言えると思います。大切なことは、このような治療法があることを知ったうえで後悔のない選択をすることです。まずは、主治医の先生に希望を伝え、必要時には生殖医療医とよく話しあって、適切な選択をしましょう。

聖マリアンナ医科大学 産婦人科学講座
高江 正道

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図1 女性の妊孕性温存療法の概要
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図2 男性の妊孕性温存療法の概要

調剤と情報 2017年9月 特集企画 AYA世代がん患者のサポーティブケア
「AYA世代がん患者のがん薬物治療と妊孕性への影響」中村健太郎、高江正道、鈴木直より抜粋(図4、図6):株式会社じほう

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