婦人科がん



 婦人科がんで妊孕性温存の主な対象となる疾患には、初期の子宮頸癌、子宮体癌、そして卵巣悪性腫瘍などがあります。初期の状態、治療法は以下の様になります(図1)(表1)

婦人科がん

子宮頸がん(初期)

 子宮の入り口(子宮頸部といいます)に留まっている顕微鏡レベルの初期子宮頸がんが原則、妊孕性温存治療の対象となります。子宮頸部を円錐形に切り取る治療を行います。もう少し大きな親指の頭ぐらいまでの子宮頸がんに対して、子宮頸部を大きく切り落として子宮本体(子宮体部といいます)と腟をつなぐ手術を行うことがあります。


子宮体がん(初期)

 子宮の内側に留まっているような初期がんが妊孕性温存治療の対象になります。子宮の内側にある病変を手術用の小さいさじで掻き出し、その後でホルモン剤の内服薬治療を行います。

卵巣悪性腫瘍(初期)

 片方の卵巣に留まっている初期の卵巣悪性腫瘍が対象となります。がんが両方の卵巣におよんでいる場合や他の臓器に進展している場合には対象となりません。主な治療は手術となります。腫瘍のある方の卵巣・卵管を切り取る手術が原則となります、また同時に他の臓器にがんが転移していないか調べる手術を追加します。卵巣悪性腫瘍の中でも「胚細胞腫瘍」という腫瘍では抗がん剤がよく効くため、卵巣を超えて腫瘍が存在している場合でも子宮と片方の卵巣を残す妊孕性温存を行う場合があります。

妊孕性温存治療(配偶子や胚などの凍結)が許容できるタイミングや期間

 上記の婦人科がんでは少なくとも1つ健康な卵巣が存在しているため(そうでなければ妊孕性温存治療の対象となりません)、配偶子や胚などの凍結を行いません。

婦人科がん

将来の妊娠について

 初期の婦人科がんでは上記のように手術でがんの部分を取り除き、健康な子宮と卵巣が残るため、自然妊娠が可能となります。ただし、時に体外受精などの高度生殖補助医療を併用して妊娠を促すこともあります。


婦人科がんにおける妊孕性温存治療に関するワンポイント知識

子宮頸がん

 高度異型上皮、上皮内がん、および微小浸潤がんが主なる妊孕性温存治療の対象です。コルポスコピー下生検で微小浸潤がんを疑う場合には診断的円錐切除術が必要となります。妊孕性を温存する場合、微小浸潤がん(IA1期)では得られた摘出検体の病理検査において、切除断端が陰性であること、そして脈管侵襲がないことが重要です。脈管侵襲が認められるとリンパ節転移率が約8倍に上昇し、再発リスクが約4倍に高まると報告されています1、2)。すなわち脈管侵襲が認められたケースでは円錐切除のみで初回治療を終えず、追加画像検査や手術で残存腫瘍の有無を適切に評価することが重要です。もし脈管侵襲が認められた場合は、骨盤リンパ節郭清術を含めた子宮全摘術が推奨されています。

 IA2期の場合、標準治療として確立してはいませんが、IA1期に準じて円錐切除、広汎子宮頸部全摘術が適応されます。いずれにしてもスキップ病変や脈管侵襲の有無には細心の注意を払う必要があります。

 IB1期で比較的腫瘍サイズが小さい(通常、長径2cm以下の場合が多い)症例に対しては広汎子宮頸部全摘術が行われています。本術式は子宮傍結合織を含め局所病変が十分に切除可能であり、子宮頸がんの十分な根治的治療法として期待できます。しかしながら、まだ本術式は登場から十分な時間が経過しておらず標準治療としては確立していません。また、広範囲な手術操作や頸管の短縮といった因子から術後頸管狭窄や不妊症が続発しやすいため、高度生殖補助技術が適応される場合が少なくありません。さらには首尾良く妊娠できたとしても流・早産などの周産期合併症が比較的高頻度で生じることに留意し、可及的対策を講じる必要があります。

子宮体がん

 子宮内膜に限局していると考えられる高分化型類内膜腺がんが適応となります。治療前にMRIによる画像診断や子宮内膜全面掻爬による病理組織検査で十分に精査を行っておく必要があります。

 現在、我が国で子宮体がんの治療に使用することができる唯一のホルモン製剤はmedoxyprogesterone acetate (MPA)です。MPAは原則として600mgを連日経口投与し、定期的に経腟超音波検査、内膜細胞診、内膜組織診で経過観察を行い、治療終了の決定には再度、麻酔下で子宮内膜全面掻爬術を行います。寛解後も定期的に同様な検査を施行し、一定期間、中用量ホルモン製剤で周期的な消退出血を起こします。

 早期妊娠を希望する場合には積極的に高度生殖医療技術を有する不妊症専門医に紹介してください。MPA療法によって約7割程度が寛解に至りますが、同時に寛解例の約7割程度が再発することにも留意する必要があります。再発例に対する治療は確立していません。再度MPA療法を行う場合もあれば子宮摘出に移行する場合もあります。患者と十分な話合いの上、方針を決定してください。

卵巣悪性腫瘍

 上皮性卵巣がんに対する妊孕性温存の基本術式に含まれる手技は、患側付属器摘出術、大網切除術、および腹腔内細胞診となります。妊孕性温存手術の選択の有無に関わらず卵巣がん手術においては正確なstagingを要します。また、pT1期と考えられた症例でも実際には10〜20%のoccult転移があると言われるため、staging 手術として、腹腔内各所の生検、後腹膜リンパ節(骨盤・傍大動脈)郭清または生検などが行われます。しかしながら、治療的意義が乏しく、腹腔内の癒着等によって妊孕能に負の影響を及ぼす可能性も危惧されるため、画像診断、術中の肉眼的所見、さらに入念な触診によって明らかに異常を認めない場合にはリンパ節郭清の省略も可能という意見があります。

 臨床病理学的な必要条件として、原則、IA期かつ高分化型という条件が掲げられています。本邦のガイドラインでは、中分化型症例、IA期明細胞腺癌、あるいは明細胞腺癌を除くIC期症例に対する妊孕性温存の可能性を示唆していますが、未だ確立した適応基準ではありません3)。今後さらなるエビデンスの構築が望まれます。

 悪性卵巣胚細胞腫瘍は原始胚細胞が悪性腫瘍化したもので、比較的まれな疾患です。未分化胚細胞腫、卵黄嚢腫瘍、およびgrade 2 /grade 3 未熟奇形腫が代表的な腫瘍としてこのカテゴリーに含まれています。成熟型奇形腫の悪性転化を除く本腫瘍の好発年齢は10~20歳代の若年層になります。本腫瘍は上皮性卵巣がんと比較して腫瘍の増大・進行が早いため、早期診断を行って速やかに治療を開始することが重要です。本腫瘍の多くが片側性であること、若年者が多いこと、および抗がん剤が著効することなどを考え、健側卵巣と子宮を温存する妊孕性温存手術が積極的に行われます。悪性卵巣胚細胞腫瘍に対する標準化学療法として、ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンを用いたBEP療法が確立しています。

名古屋大学医学部 産婦人科
梶山 広明

婦人科がん1
図1
表1 各初期婦人科がんにおける妊孕性温存治療に関するポイント
  主な対象病期等 主な妊孕性温存治療 治療、経過観察の要点 患者説明のポイント
子宮頸がん 上皮内癌 円錐切除術 *スキップ病変・切除断端陽性例に注意 月経困難症の続発や流・早産リスクの説明
微少浸潤癌 円錐切除術 *脈管侵襲陽性に注意 診断的円錐切除後の病理評価によって妊孕性温存の対象から外れることもある
局所浸潤癌(IB1期) 広汎子宮頸部全摘術 *確立した標準治療ではない。
*脈管侵襲に注意。
*頸管狭窄に注意
挙児希望の場合、自然妊娠が得られにくく高度生殖補助技術が必要となる場合が多い。
子宮体がん 子宮内膜限局型、高分化型 子宮内膜全面掻爬術+高容量プロゲステロン療法 *術前はMRI等で筋層浸潤がないことを確認。
*薬物療法の副作用に注意。
*完全寛解が得られない場合には妊孕性温存を断念し、子宮摘出に移行。
*完全寛解後の再発が多い
完全寛解後で挙児希望の場合、高度生殖補助技術が必要となる場合が多い。
卵巣悪性腫瘍
上皮性卵巣がん IA、非明細胞癌 片側付属器切除術+ステージング手術 *妊孕性温存治療の適応が明細胞癌、被膜破綻症例、中~低分化型癌では確立していない。
胚細胞腫瘍 I期以上も対象 片側付属器切除術+ステージング手術+抗癌剤治療 *好発年齢は10~20歳代の若年層である。
*上皮性卵巣癌と比較して腫瘍の増大・進行が早いため、早期診断を行って速やかな治療開始が重要。
*原則、むやみに薬剤投与量の減量や変更をせず、治療スケジュールを厳守することが重要。

引用文献

  1. Copeland, L.J., et al., Superficially invasive squamous cell carcinoma of the cervix. Gynecol Oncol, 1992. 45(3): p. 307-12.
  2. Mota, F., Microinvasive squamous carcinoma of the cervix: treatment modalities. Acta Obstet Gynecol Scand, 2003. 82(6): p. 505-9.
  3. 日本婦人科腫瘍学会, 卵巣がん治療ガイドライン2015年版. 2015, 金原出版.