「日本の「がん・生殖医療」発展のために」

がん治療と妊娠~がん治療後の将来を見据えて~

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レポート

第14回 日本不妊カウンセリング学会に参加して

日時:平成27年5月29日
場所:ニッショーホール

東京慈恵会医科大学 産婦人科
杉本 公平

 

 平成27年5月29日に、東京都港区虎の門のニッショーホールで行われた第14回日本不妊カウンセリング学会に参加してまいりましたのでご報告します。今回の学会長は虎ノ門病院リプロダクションセンターの東梅久子先生です。テーマは『がんと生殖』であり、シンポジウムのタイトルは「『がんと生殖』の連携と協働を考える」であり、私はシンポジストの一人として参加させていただきました。当院の看護師でJSFPカウンセリング小委員会の一人である稲川早苗も、一般演題で「がん・生殖医療の精神的サポート体制における医師・看護師の連携体制について」というタイトルで発表する機会を頂きました。
 学会は「がん・生殖医療」に関するテーマを中心に過去最大の50演題以上の発表があり、500名を越える参加者が集まっていました。がん・生殖医療に対する関心の高まりが、感じ取れる学会でありました。3年前にJSFP理事長の鈴木直先生がこちらの学会が行っている不妊カウンセラー・体外受精コーディネーター養成講座でお話をされたおかげであると考えられました。
 午前中に稲川の発表がありました。実は彼女はこれが学会発表は初めてだったのですが、堂々たるものでした。

 稲川のプレゼンが終わり、お昼になりましたが、実は私は一度大学に戻りました。虎の門は慈恵から歩いていける場所なのです。少しだけ外来を手伝いに行きますと、留守番の伊藤が一人で診療をしているものと思いきや、ポリクリの学生が一人見学していました。生殖医療に興味があるとのことで、「杉本先生のクルズスが聞きたいです。」と言われました。さっさと学会に帰ればいいのに熱く40分ほど話をしてしまいました。
 大学を出てまさに戻ろうとしたその時に稲川からメールで「奨励賞頂きました。」とメールが来ました。うれしい反面、せっかくの表彰式の瞬間を見逃してしまった口惜しさも感じながら会場に戻りました。
 16時半からいよいよシンポジウムのスタートです。4人の演者でがん・生殖医療における連携を、一般病院、クリニック、総合病院の立場からお話がありました。総合病院の立場からは聖路加国際病院の女性総合診療部の塩田恭子先生がお話しされました。その大御所のあとで私がJSFPのカウンセリング小委員会の活動をもとにがん・生殖医療における精神的サポート体制構築に向けての取り組みについてプレゼンさせていただきました。

 小委員会のメンバーである奈良先生、小泉先生、秋谷先生、中村先生も応援に来てくださっていました。なんとか無事に話し合えた後の総合討論では多くの質問がありましたが、中身の濃い議論が多くできました。大阪大学小児科の三善陽子先生から、「後ろの方からみていて、とても熱心に聴衆は話を聞いていた。」と教えていただきました。我々の目指すところについてある程度伝えることができたのではないでしょうか。がん・生殖医療が正しく世の中に伝わっていくためには広く正しく啓蒙されて行くことが必要と考えておりますが、一応その目的は果たせたのかなと思っております。今後もこのような機会を大切にがん・生殖医療の啓蒙に携わり、精神的サポート体制の確立を目指していきたいと思います。

 

がん・生殖医療シンポジウムを開催して

がん・生殖医療カウンセリングシンポジウム『がん・生殖医療導入に向けた心理的サポート体制構築について検討する』

日時:2014年11月30日(日)
場所:東京慈恵会医科大学1号館

がん・生殖医療シンポジウム『がん・生殖医療導入に向けた精神的サポート体制構築について検討する』を開催して(第1報)

東京慈恵会医科大学産婦人科学講座
杉本 公平

 がん・生殖医療の患者さんは『生命』と『妊孕性』の危機を同時に迎えて短時間のうちに多くの意思決定をしていかなくてはなりません。このような状況にある患者さんへの心理的サポートが重要であることは議論を待ちません。JSFPではこの点に着目して研究会発足後ただちにカウンセリング小委員会を立ち上げました。2013年3月の第一回よりほぼ欠かさずに毎月小委員会を開催して議論を重ねてきました。今回のシンポジウムでは看護職、心理職、遺伝カウンセリングの第一人者の先生方にご講演いただき、さらに我々小委員会の行ってきたことを披露するとともにその議論の中からでてきた問題をシンポジウムに参加された方々に提議、議論をして認識を共有していくことにより心理的サポート体制を構築していく上での土台を築いていくことを目的としました。そのために午後はグループ・ディスカッション、フリー・ディスカッションを行うことにして、多くの方々が意見を交わすことができるプログラムを主眼としました。

 まずは今回のシンポジウムを共同開催したJSFPの理事長である聖マリアンナ医科大学産婦人科学講座教授でいらっしゃる鈴木直教授、そして日本生殖医療心理カウンセリング学会(JAPCRM)理事長でいらっしゃる森本義晴IVF JAPAN CEOからご挨拶をいただきました。

 続いてカウンセリング小委員会から杉本が『がん・生殖医療における精神的サポート体制の構築』、国際医療福祉大学病院教授の高見澤聡先生からは『がん・生殖医療への日本生殖医療心理カウンセリング学会の取り組み』のご講演を頂き、カウンセリング小委員会の目指しているところを参加いただいた皆様に説明させていただきました。

 ここからが講演のメインになって参ります。今回のシンポジウムの参加者の中で医師の占める割合は4分の1程度でした。参加された多くのコメディカルの方々、看護職、心理職、遺伝カウンセリングに携わる方々が心理的サポートの主役になっていただくことになります。その世界の第一人者の先生方に各々の領域からがん・生殖医療について語っていただきました。聖路加国際大学の母性看護・助産学教授でいらっしゃる森明子先生には『がん・生殖医療における生殖看護の役割 』、北里大学大学院の医療系研究科・医療心理学教授でいらっしゃる岩満優美先生には『がん患者の心理的変化と心理的援助について』、胎児クリニック東京の医療情報・遺伝カウンセリング室室長でいらっしゃる田村智英子先生には『がん・生殖医療を考える~遺伝カウンセラーの立場から~』というタイトルでご講演をいただきました。アンケートでは講演に対する満足度の高さがうかがえましたが、一方で『講演のハンドアウトを用意しておいてほしかった。メモだけではもったいない話がいっぱいあった。』とのご指摘も受けました。この点では反省しております。

 そして、特別講演では大東文化大学のスポーツ・健康科学部教授でいらっしゃる杉森裕樹教授から『患者中心の医療-シェアードディシジョンメイキング』のご講演をいただきました。がん・生殖医療での精神的サポートを考えていく上で、その困難な意思決定に対してシェアードディシジョンメイキングという観点を教えていただき、まさに目から鱗が落ちた思いをした方が少なくなかったと思います。

 以上で午前の講演は終了しました。午後からはグループ・ディスカッションとフリー・ディスカッションが行われました。フリー・ディスカッションは午前の講演を行った慈恵医大1号館3階講堂で、グループ・ディスカッションは同じく1号館6階実習室に移動していただきました。フリー・ディスカッションとはいうものの、実際は杉本がいくつかのテーマを作っておき、その問題についてディスカッションをさせていただきました。『がん・生殖医療の心理的サポートは、がんの診断がされた時点から行うべきである。』、『がん・生殖医療の精神的サポートに特化した職種を育成すべきである。』、『妊孕性温存治療を終了後、精神的サポートのための定期的面接は、患者本人の希望の有無に関わらず、行うべきである。』、『がん・生殖医療で心理的サポートを要求することはがん・生殖医療の普及の障害になる。』といったテーマについてディスカッションを交わしました。非常に多くのご意見を賜ることができましたが、実は最後に『がん・生殖医療に当事者によるピア・カウンセリングは導入できる。』というテーマを用意していたのですが、時間がなくてそこまでたどり着けませんでした。スライドを進めていく時にそのスライドが見えてしまい、がんのピア・カウンセリングに携わっていらっしゃる参加者の一人の方から『ぜひ、ピア・カウンセリングのディスカッションをして欲しかった。』とのご意見をいただきました。司会である私の不手際であったと反省しております。

 グループ・ディスカッションの司会は東京HARTクリニックの臨床心理士でJAPCRMの副理事長でいらっしゃる平山史朗先生にお願いしました。こちらでは9つのテーブルに分かれて、各々8人ずつでチームを作りました。各テーブルのテーマは『施設間の連携』、『職種間の連携』、『施設間の連携』、『乳がん症例の連携』と決めさせていただきました。各チームにリーダーの方1名、書記は小委員会のメンバーが務め、さらに大御所的な先生方にはオブザーバーとしてディスカッションを進行させていただきました。私自身はこちらに参加できなかったのですが、3階講堂へ戻っていらっしゃる方々の興奮した雰囲気から、そして、その後のプレゼンテーションからかなり熱くディスカッションを交わされたものとの手ごたえを感じました。アンケートでも『考え方が共有できた。』、『今後も同じテーマを扱った研修会を継続してほしい。』と言った声が寄せられました。ただ、中には『グループ・ディスカッションに参加できなくて残念、メンバー選択の基準を教えて欲しい。』という御意見もありました。メンバー選択に関しましては、小委員会の先生方の意見も取り入れながら最終的には杉本の一存で決めさせていただきました。グループ・ディスカッションに参加希望であったにもかかわらず、フリー・ディスカッションに回っていただいた参加者の方にはこの場を借りてお詫び申し上げます。施設の規模の問題や当日参加者がどの程度になるか予測のつかない状況であったために、こちらからグループ・ディスカッションの参加者の方は決めさせていただきました。次回、同様の企画を行うことができるのであれば、参加者の方のご意向がくめるような形をとれるように努力致します。

 以上が今回のシンポジウムの概要です。今後は詳細な内容をまとめてレポートを作成する予定であり、また、英文雑誌への投稿も検討しております。その際には引き続き皆様のご指導を仰ぎたいと思っております。最終的にシンポジウムにはスタッフを含めて197名の方にご参加いただきました。内訳は医師60名、看護師65名、心理士30名、遺伝カウンセラー10名、培養士7名、学生7名、教員2名、その他16名でした。多数の方のご参加で盛会になったことをこの場を借りてお礼申しあげます。
 私自身の感想としましては、当日は何が何だかわからないうちに終わったように思えましたが、私の当初イメージしていたシンポジウムを概ね催すことができたと感じております。そして、参加いただいた皆様からの熱気は私が予想していた以上のものでした。シンポジウムを通じて多くの医療者の方が、がん・生殖医療の心理的サポートに対して認識を共有するという目的はある程度達成できたように思っております。同時にここがまだスタートなのだという意識も持っていただけたのではないかと思います。このシンポジウムで作った流れをとどめずに、小委員会の先生方を中心としてがん・生殖医療に関わっている方、これから関わっていこうとされる方と心理的サポート体制構築について議論を重ねていきたいと思っております。

 最後に午前は講演、午後はディスカッションとかなり無謀なシンポジウムの計画を実現するために協力してくださった全てのスタッフの方々、特に事務局長を務めてくれた東京慈恵会医科大学の大野田晋先生と彼を陰からご指導いただいた聖マリアンナ医科大学の杉下陽堂先生にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

 

 

 

がん医療従事者向け研修会を開催して

がんサバイバーシップを科学する
~がんと生殖医療~

日時:2014年10月13日(月・祝)13:00-17:00
場所:国立がん研究センター 国際研究交流会館

がん医療従事者向け研修会「がんサバイバーシップを科学する~がんと生殖医療~」を開催して

国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科
清水千佳子

 がん患者は増加の一途をたどっていますが、早期発見や治療法の進歩によりがんサバイバーも増えており、I-II期のがんでは5年生存割合が90%を超えるがん腫もあります。がん治療を個別化し、がん罹患後のサバイバーシップまで視野に入れたケア・プランを提案すべき時代になってきたと言えます。国内でも、サバイバーシップ支援の機運が高まりつつありますが、なかなか患者に還元できる取り組みに結びついていないのではないかと感じています。
 そんな問題意識をさまざまな職種でオープンに話し合ってみたいという思いから、2014年10月13日、国立がん研究センター築地キャンパス内 国際交流会館にて、日本対がん協会、日本がん・生殖医療研究会との共催により、厚生労働科学研究(がん対策推進総合研究(がん政策研究))推進事業のがん医療従事者向け研修会「がんサバイバーシップを科学する~がんと生殖医療~」を開催させていただきました。当日は連休の最終日で、かつ全く不運なことに大型の台風19号の首都圏直撃という予報にもかかわらず、90名を越す参加者が集まってくださいました。熱意ある参加者の皆様にはこの場をお借りして御礼申し上げます。

 さて、サバイバーシップに関わる問題は多岐にわたりますが、なかでもがん患者の妊孕性への取り組みは、サバイバーシップ支援の取り組みの代替指標ともいわれており、国内でも少しずつ具体的な支援がはじまっていることから、今回の研修会での具体的な題材として取り扱うことといたしました。
 前半は教育講演では、まず、がん患者の生殖の問題と国内外での支援の現状についての知識を共有しました。国内の現状については、生殖医療の立場から鈴木直先生にお話いただき、オンコロジーの立場からは私がお話させていただきました。国内では、日本がん・生殖医療研究会を中心に医療者のネットワークが構築されつつあり、また医療者の知識の共有をはかるための「診療の手引き」が完成したわけですが、会場からの質問にもありましたように、問題は目の前の患者さんへの具体的「実践」で、エビデンスの中に正解を求めたり、ガイドラインで標準化したりできる性質のものではありません。会場からの質疑を通して、エビデンスの有無や限界、それの価値について、医療者間、医療者と患者の間で対話する技術を、医療者は「スキル」として身に着ける必要があると、改めて感じました。

 3席目は、今回特別にお招きしたDana Farber研究所のAnn Partridge先生に、米国でのサバイバーシップ支援の取り組みの現状をお話いただきました。Dana Farber研究所は、組織として「サバイバーシップ支援プログラム」にいちはやく取り組んでいる施設ですが、Ann先生はその中心的存在です。Dana Farber周囲にある世界有数の医療機関との連携にもとづいて、がん・生殖医療にとどまらず、さまざまな領域で臨床や研究の連携が行われていることを知り、それに一歩でも二歩でも近づきたいという思いを強くしました。近隣に多くの競争相手のあるDana Farberでは、サバイバーシップ支援にいちはやく取り組むことを、競争相手との差別化の戦略として組織が応援したという経緯をうかがい、競争が良い意味で医療を育んでいく米国社会ならではの力強さを垣間見たように思いました。

 後半のパネル・ディスカッションでは、本研修会のメインテーマ「サバイバーシップを科学する」について活発な議論が交わされました。サバイバーシップは重要であり、その支援が「良い」ことであることは誰もが漠然と感じており、その精神は国のがん対策基本法にも、がん対策推進基本計画にも謳われているところですだと思います。しかしがん・生殖医療の例にみられるように、実際に現場で扱うサバイバーシップの問題は、個人的で、じかつ複合的な問題がからんでおり扱いにくい。そうしたイメージが、組織的・戦略的な支援体制の構築を阻んでいるのではないか。パネル・ディスカッションでは、サバイバーシップ支援、ひいてはサバイバーシップのあり方を変えていくために、具体的にどう取り組むのかということを、パネリストと会場とが一体となって、活発な議論を行いました。さまざまな議論があったのですが、主なtake-home messageは以下のようなものだったかと思います:

  1. ①サバイバーシップ支援は、患者・サバイバーが社会で生きることへの支援であることを、社会全体が認識する必要がある
  2. ②サバイバーシップのニーズや支援の有用性を、科学的な説得力のあるデータで示す必要がある
  3. ③研究においても実践においても、医学・医療の枠を超えたコラボレーションが必要である
  4. ④公的研究費の事業企画や研究審査に患者・サバイバーが関与すべきである
  5. ⑤研究資金については、新薬開発とは異なり製薬企業が主体的に取り組む研究課題ではなく、また公的研究費でも継続的な取り組みが保障されないため、サバイバーシップの問題を社会の問題とすることで、医療以外のコミュニティを巻き込んでいく必要がある

 

 本研修会には、外科医、腫瘍内科医、血液内科医、生殖医療医、小児科医、薬剤師、看護師、助産師、臨床心理士、胚培養士、研究者、サバイバー、厚生労働省の方、臨床試験団体の方など、実にさまざまな立場の方々が参加してくださりましたが、前向きな議論を通じて、異なる領域の人々が、可能性のある創造的なビジョンを共有できたことは、本研修会の非常に大きな成果だったのではないかと思っています。

 当日の会場の熱気はなかなか言葉で伝えきれないのですが、日程や天候の関係で研修会に参加できなかった方々も含め、このような研修会があったこと、研修会の様子を、ぜひ多くの方々に知っていただきたいと思っています。教育講演については日本対がん協会のウェブサイト(http://www.jcancer.jp/)より動画配信されておりますので、ご関心のある方々にはぜひご覧いただければと思います。

 

 

 

 

Oncofertility Consortium 2014に参加して

東京慈恵会医科大学産婦人科学教室
杉本 公平

 2014年9月22日と23日にシカゴのNorthwestern大学のPretice Women's Hospitalで行われたOncofertility Consortium 2014に参加させていただきましたので、ご報告します。慈恵医大からは私とレジデント1年目の吉川直希が参加しました。聖マリアンナ医大の鈴木直教授、高江正道先生、西島千絵先生に導かれながら、バンクーバーを経由して前日の21日にシカゴ入りしました。シカゴのダウンタウンの中に大きなビルディングを連ねているNorthwestern大学病院の建物群は圧巻でした。シカゴでは岐阜大学の古井辰郎准教授、竹中基紀先生、成育医療センターの小泉智恵先生、聖マリアンナ医大の樽見航先生と合流しました。夕食では皆でしっかりとステーキを平らげ、翌日に備えました。

 22日は朝からポスターを掲示してとりあえず一安心、会場に用意された朝食をいただいてからいよいよ講義を聞くこととなりました。各腫瘍担当科の先生から放射線科、基礎の先生方等のお話を一通りお聞きしました。英語の苦手な私には厳しいものがありましたが、JSFPで行っているシンポジウムとほとんど同じような内容であり、特段に日本の取り組みは遜色ないという印象を受けました。


Dr.Senderの講演(Oncofertility Consortiumのサイトから講演を視ることができます。)

 夕方からのEvening Receptionでいよいよposter presentationとなるのですが、皆さん、最初は全くポスターには足を運ばず、しっかりと食事とお酒をいただいていい気分になってからポスターの前でディスカッションが始まりました。私のポスターのタイトルは『Report on the Activities of the Counseling Working Group of Japan Society for Fertility Preservation』 であり、JSFPカウンセリング小委員会の報告というものでした。『とにかく印象的な(派手な?)ポスターを作る。』というのが小委員会メンバーの強い意向であったためにNBAのシカゴブルズの壁紙を背景にした赤地のポスターを作成しました。


ポスターの前で鈴木教授と記念撮影

 興味をもってくれてそうな女性に声をかけたら、『私は高校生よ。』と言われてしまい、話が続けられなくなってしまいました。そのうち高齢の女性が近づいてこられて私のポスターをみて『Wow!』と声をあげられました。最初は医療関係者の方と思えずにシカゴブルズの話でそのおばあさんと盛り上がりました。まあ、ポスターの内容は別にして何しろ興味を持っていただいたことが嬉しかったのです。ブルズの余程のファンだったのでしょう。マイケル・ジョーダンやスコッティ・ピッペンなどブルズ黄金時代のスターの名前を出すだけで、おばあさんうるうるしてくださいました。多分、ご家族のお見舞いにでも来られて迷い込んだおばあさんと思いこみ、他に質問とかしてくる人もいないので、おばあさん孝行をしておりました。そうしているうちにある人物を見かけて、そのおばあさんは大きな声で呼びかけました。
『テレサ、テレサ、こっちに来てこの先生のポスターをごらんなさい!』
『OK,OK,彼のことは知ってるわよ。日本のNHKの2時間スペシャルでみたわよ。』
その人物とはOncofertility ConsortiumのDirectorであるTeresa Woodruff教授だったのです。
Woodruff教授が、私のポスターで指摘しているがん・生殖医療における心理的サポート体制を構築していく上での問題点や、医療関係者以外との連携の必要性について共感してくれたことはうれしいとともに、世界共通の課題であることを再認識しました。そして、私のことなどを彼女がリサーチしていたことには驚きました。そして、そのおばあさんがWoodruff教授の先輩(多分?)だったことも。
その他にも色々な国の方と話しましたが、どこの国でも患者の精神的サポートまではまだ手が回っていない、そこまで無理っていう表情がありありでした。まだどの国でも未開の領域であることを確認できました。その後は韓国の先生方とシカゴ・ピザを堪能して楽しい時間を過ごすことができました。

 翌日は朝7時からGlobal Breakfast Agendaに参加しました。Oncofertility Consortiumに参加している各国の状況についての報告を聞きましたが、アメリカを除くと、日本が組織作り、社会への啓蒙活動などすべての点で明らかに一番進んでいるという印象を受けました。


Woodruff教授室にて記念撮影 左より鈴木教授、Woodruff教授、私、樽見先生、高江先生

 午後からはCommunication 101に参加しました。ここではWoodruff教授がエネルギッシュなプレゼンで彼女がどのように啓蒙活動を行っているのか、解説してくれました。まずは高校生(実際にOncofertility Consortium2014にも何人か参加していました)達にがん・生殖医療の現場を見学する機会を設けたり、さらには教育者に対するがん・生殖医療の教育にも取り組んでいることを知りました。日本でも妊孕性に対する啓蒙の必要性がようやく社会の関心ごとになってきておりますが、このあたりは我々も学んでいかねばならない点であると思います。非常にimpressiveかつ有用な講演でしたが、いくつかの疑問点も残りました。医療事情をはじめとする社会的問題の側面、さらには宗教や伝統的背景もからんでいることですが、一つはOncofertility Consortiumのサイトからは素晴らしく質の高い、大量の情報を得ることができるものの、果たして誰もがこれだけの情報を咀嚼できるのだろうかということ、もう一つは妊孕性温存に成功できなかったケースへの心理的サポートの在り方についてはまだ手が付けられていないのではないかということです。この領域は各々の国がおかれた環境に応じた対応をしなくてはならないと考えます。より平等に情報がいきわたるシステム、どのような伝え方がより正確にかつ多くの人に伝えることができるのか、そして、妊孕性温存できなかった人のみならず、『生命』と『妊孕性』の喪失の狭間で苦しむがん・生殖医療の患者さんたちをどのように精神的にサポートしていくのか、まだまだ多くの課題が山積していると考えます。2014年11月30日に慈恵医大で行われるがん・生殖医療シンポジウム『がん・生殖医療導入に向けた精神的サポート体制構築を検討する』では、これらの問題を解決していく上での一助となるものを得たいと考えております。