「日本の「がん・生殖医療」発展のために」

がん治療と妊娠~がん治療後の将来を見据えて~

サイトマップ

一般の方・患者のみなさま

がん・膠原病治療と妊よう性の関係

卵巣は、抗がん剤や放射線などがん細胞にダメージを与える治療に対して大変敏感な臓器です。
抗がん剤によって誘発される化学療法誘発性無月経は、化学療法開始以後1年以内に生じる3ヶ月以上の無月経と定義されます。
その発生頻度は患者さんの年齢、抗がん剤の種類、抗がん剤の投与量に左右されると考えられており、20%から100%の患者さんに発症するといわれています。年齢は重要な予後不良因子であり、思春期のがん患者さんでは閉経が早まる確率が健康な人と比べて4倍も高まると報告されています。2006年に治療法別の卵巣機能不全リスクがASCO(米国臨床腫瘍学会)で報告されており、80%以上が卵巣機能不全となるものとしては造血幹細胞移植、卵巣への放射線照射、40歳以上の乳がん患者へのアルキル化剤中心の化学療法があげられています。
表1のように、抗がん剤の組み合わせによって卵巣への影響は異なりますが、最も影響の強いものはシクロフォスファミドに代表されるアルキル化剤です。一方、抗がん剤による精巣に対する影響は様々ですが、重度の場合は永続的に無精子症となることがあります。最も精巣への影響が強い薬剤は、シクロフォスファミド、クロラムブシル、メルファラン、ブスルファン、プロカルバジン等のアルキル化剤を含む組み合わせであり、投与された患者さんの90-100%に一時的もしくは永続的な無精子症を引きおこすとされています。なお非アルキル化剤では約1/3が無精子症となりますが、ほぼ全例で回復が期待できると考えられています。
一般的に精子形成には約70日間を要することから、抗がん剤による影響は精祖細胞が最も受けやすく、そのため治療から約2-3か月経過すると精子濃度、運動率、正常形態率は減少しますが、精漿分泌量は変化しないため精液量は減少しません。
前述のように、造精機能低下の程度は様々であり、精祖細胞の障害が軽度であれば、生殖機能は1-3年かけて回復することとなります。しかし、精子濃度の低下が大きい症例ほどその回復には時間がかかり、高用量のアルキル化剤を含む化学療法では無精子症が改善しない場合もあり、化学療法前の精子凍結保存考慮する必要があります。



表1、化学療法および放射線療法の性腺毒性によるリスク分類 (女性)  ASCO 2013
  治療プロトコール 患者および投与量などの因子 使用対象疾患
High Risk
(>70%)
アルキル化剤#+全身放射線照射 白血病への造血幹細胞移植の前処置、リンパ腫、骨髄腫、ユーイング肉腫、神経芽細胞腫、絨毛癌
アルキル化剤#+骨盤放射線照射 肉腫、卵巣に対して
シクロホスファミド総量  5g/m2(> 40歳)
7.5g/m2(< 20歳)
 乳癌、非ホジキンリンパ腫、造血幹細胞移植の前処置など
プロカルバジンを含むレジメン
MOPP:> 3サイクル、
BEACOPP:> 6サイクル
ホジキンリンパ腫
テモゾラミド or BCNUを含むレジメン
+全脳放射線照射
  脳腫瘍
全腹部あるいは骨盤放射線照射  > 6Gy (成人女性)
 > 10Gy (初経発来前)
 > 15Gy (初経発来後)
ウィルムス腫瘍、神経芽細胞腫、肉腫、ホジキンリンパ腫、卵巣に対して
 全身放射線照射   造血幹細胞移植
 全脳放射線照射  > 40Gy 脳腫瘍
Intermediate Risk
(30%~70%)
 シクロホスファミド総量  5g/m2 (30-40歳)
 乳癌など
乳癌に対するAC療法  X4コース+パクリタキセル / ドセタキセル (< 40歳)  乳癌
 FOLFOX4(フルオロウラシル・ フォリン酸・オキサリプラチン)   大腸癌
 シスプラチンを含むレジメン    子宮頸癌
 腹部あるいは骨盤放射線照射  10-15Gy (初経発来前)
 5-10Gy (初経発来後)
 ウィルムス腫瘍、神経芽細胞腫、 脊髄腫瘍、脳腫瘍、ALL、 ホジキンリンパ腫再発
Lower Risk
(< 30%)
アルキル化剤以外の薬剤を含むレジメン ABVD、CHOP、COP、白血病に対する多剤療法  ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、白血病
 シクロホスファミドを含む乳癌に対するレジメン  CMF、CEF、CAF (< 30歳)  乳癌
アントラサイクリン系+シタラビン   AML
Very Low or
No Risk
ビンクリスチンを用いた多剤療法 白血病、リンパ腫、乳癌、肺癌
放射性ヨウ素   甲状腺癌
 Unknown  モノクローナル抗体(ベバシツマブ、セツキシマブ、トラスツマブ)   大腸癌、非小細胞肺癌、頭頸部癌、乳癌
 チロシンキナーゼ阻害剤
(エルロニチブ、イマニチブ)
  非小細胞肺癌、膵臓癌、CML、GIST

#.アルキル化剤:ブスルファン、カルムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、ロムスチン、メルファラン、プロカルバジン

※ベバシツマブ:卵巣毒性を有する可能性有り



表2、化学療法および放射線療法の性腺毒性によるリスク分類 (男性)  ASCO 2013
  治療プロトコール 患者および投与量などの因子 使用対象疾患
High Risk
(治療後、一般的に無精子症が遷延、持続する)
アルキル化剤#+全身放射線照射 白血病への造血幹細胞移植の前処置、リンパ腫、骨髄腫、
ユーイング肉腫、神経芽細胞腫
アルキル化剤#+骨盤放射線照射 肉腫、精巣に対して
シクロホスファミド総量 < 7.5g/m2 造血幹細胞移植の前処置など
プロカルバジンを含むレジメン
MOPP:> 3サイクル、
BEACOPP:> 6サイクル
ホジキンリンパ腫
テモゾラミド or BCNUを含むレジメン
+全脳放射線照射
  脳腫瘍
全腹部あるいは骨盤放射線照射  > 2.5Gy(成人男性)
 > 15Gy(小児)
ウィルムス腫瘍、ALL、肉腫、胚細胞腫瘍、非ホジキンリンパ腫、精巣に対して
 全身放射線照射   造血幹細胞移植
 全脳放射線照射  > 40Gy 脳腫瘍
Intermediate Risk (治療後、無精子症が遷延することがある) シスプラチンを含むレジメン
BEP
シスプラチン総量
カルボプラチン総量

2-4サイクル
> 400mg/m2
> 2g/m2
精巣腫瘍
散乱による精巣への放射線照射 1-6Gy ウィルムス腫瘍、神経芽細胞腫
Lower Risk (一時的な造精能低下) アルキル化剤以外の薬剤を含むレジメン ABVD、CHOP、COP、白血病に対する多剤療法  ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、白血病
精巣に対する放射線照射 < 2-7Gy 精巣腫瘍
アントラサイクリン系+シタラビン   AML
Very Low or
No Risk
(影響なし)
ビンクリスチンを用いた多剤療法 白血病、リンパ腫、肺癌
放射性ヨウ素   甲状腺癌
散乱による精巣への放射線照射 < 2Gy あらゆる悪性腫瘍
 Unknown  モノクローナル抗体
(ベバシツマブ、 セツキシマブ)
  大腸癌、非小細胞肺癌、頭頸部癌
 チロシンキナーゼ阻害剤
(エルロニチブ、イマニチブ)
  非小細胞肺癌、膵臓癌、CML、GIST

#.アルキル化剤:ブスルファン、カルムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、ロムスチン、メルファラン、プロカルバジン