「日本の「がん・生殖医療」発展のために」

がん治療と妊娠~がん治療後の将来を見据えて~

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妊よう性温存療法について

卵巣組織凍結保存・移植について

 卵巣組織凍結保存は、抗がん剤による化学療法やホルモン療法放射線療法を遅らせることができない患者さんにとって有効な治療法で、手術(主に 腹腔鏡という内視鏡による手術)によって卵巣(片側あるいは一部)を取り出し、妊孕性に対して悪影響を及ぼすがんの治療が終わったのちに 体内へ卵巣組織を戻すという、新しい妊孕性温存療法です。しかしながら、新しい治療方法のため、その有効性や安全性に関して未知な点も少なくない事から、卵巣組織凍結保存 は2014年に米 国生殖医学会(ASRM)より示された新ガイドラインにおいても未だ“試験的な治療方法”とされており、現時点では採卵行為ができない、小児から思春期までの患者さんのみに適応であると考えられています。

 卵巣組織凍結保存の歴史はまだ浅く、1997年に海外で初めて卵巣組織凍結 が行われ2004 年に最初の出産例が報告された後、現在までに60 例の報告しかありませんが(JARG 誌 2015年)、卵巣組織を移植された66症例に関する検討では、93%の患者で卵巣機能が回復したと報告されており(AJOG誌2016年)、 その有効性に注目が集まっております。本領域の世界の第1人者である Donnes博士の報告によると、「世界中で生児獲得の報告が相次いでいることから(生児獲得率は約25%:卵 巣組織移植あたり)、卵巣組織 凍結はもはや研究段階の技術ではなくなった(Lancet 誌 2015年)」とされています。そのような流れから、近年の特に欧州諸国では『卵巣組織凍結保存は、早期に閉経をきたしうる卵巣毒性を有する治療を受ける全ての若年女性がん患者に選択 肢として提供すべき医療行為である』とされています。

 本邦においても、2014年6月に日本産科婦人科学会は「医学的適応による未受精卵子および卵巣組織の採取・凍結・保存に関する見解」を以下の様に示しています。「悪性腫瘍など (以下、原疾患)に罹患した女性に対し、その原疾患治療を目的として 外科的療法、化学療法、放射線療法などを行うことにより、その女性が妊娠・出産を経験する前に卵巣機能が低下し、その結果、妊孕性が失われると予測される場合、妊孕性を温存する方法として、女性本人の意思に基づき、未受精卵子を採取・凍結・保存すること(以下、本法)が考えられる。—中略—なお、同じ目的で行われる卵巣組織の採取・凍結・保存については未受精卵子の場合と同じ医療行為に属するものであり、基本的に本法に含まれるものと考え、本見解を準用する」。そして2016年4月現在、20 施設で卵巣組織凍結保存・移植 が施行可能となっており(表参照)、徐々にその症例数が増加してきております。

 卵巣組織凍結のメリットは、胚(受精卵)や未受精卵子の凍結に比べて保存できる卵子の数が圧倒的に多く、妊孕性温存療法として非常に有利となる可能性があることが挙げられます。また月経周期に左右されず排卵誘発も不要なため、短期間で保存が完了することも非常に大きなメリットとして挙げられます。一方、大きなデメリットとして凍結した卵巣組織に微小残存癌病巣(MRD: Minimal Residual Disease)が混入する危険性が指摘されています。つまり凍結保存した卵巣組織にがん細胞の転移があり、卵巣組織を移植したことによって病気が再発する危険性があるということです。特に白血病や卵巣癌などではがん細胞混入のリスクが高いため、卵巣組織凍結および移植は推奨されておりません。現在の進歩した医学をもってさえも、あらゆるがんにおいて100%安全を保障する事は困難ですが、諸外国の医療機関の報告によると、初期の乳癌がん患者における卵巣組織凍結の安全性は高いと判断されています。世界中の研究機関においてMRDの検出方法や卵胞の完全体外培養法(体内に卵巣を移植しないで、卵巣組織の体外培養のみで卵子を得る方法)などに関する研究がなされており、今後、卵巣組織凍結保存は極めて有用なツールになり得る可能性があります。

 最後に、卵巣組織凍結保存・移植を行う際に最も重要な事として、「若年がん患者さんが希望を持ってがんと闘うために、がん治療医(主治医)と産婦人科医間の密接な医療連携によって、何よりもがん治療が最優先である中での妊孕性温存を考える」という、がん・生殖医療の基本理念を守りつつ、その適応を十分に検討する必要性があります。卵巣組織凍結保存・移植に関する安全性と有効性に関するさらなる検討を引き続き継続していく必要性があります。



■本一覧は日本産科婦人科学会ホームページ公開情報(医学的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織凍結施設)を
 参考にしています。

  施設名 卵子凍結 卵巣組織凍結
北海道・東北
北海道
・東北
KKR札幌医療センター斗南病院
神谷レディースクリニック
札幌厚生病院
札幌医科大学
弘前大学
京野アートクリニック
秋田大学
東北大学 -
吉田レディースクリニック -
関東
関東 埼玉医科大学総合医療センター
順天堂浦安病院
亀田総合病院亀田クリニック
東京医科歯科大学
東京医科大学
京野アートクリニック高輪
京野アートクリニック品川(卵巣組織保存センター)
聖マリアンナ医科大学
自治医科大学 -
横田マタニティーホスピタル -
虎の門病院 -
順天堂大学 -
昭和大学 -
東邦大学医療センター大森病院 -
加藤レディスクリニック -
日本大学板橋病院 -
新橋夢クリニック -
横浜市立大学市民総合医療センター -
東京慈恵会医科大学 -
甲信越
甲信越 新潟大学 -
東海
東海 聖隷三方原病院
岐阜大学
名古屋大学
浜松医科大学 -
俵IVFクリニック -
静岡レディースクリニック -
アクトタワークリニック -
三島レディースクリニック -
クリニックママ -
名古屋第一赤十字病院 -
浅田レディース勝川クリニック -
浅田レディース名古屋駅前クリニック -
近畿
近畿 滋賀医科大学
府中のぞみクリニック
HORACグランフロント大阪クリニック
兵庫医科大学
英ウィメンズセントラルファティリティクリニック
大阪医科大学 -
関西医科大学枚方病院 -
IVF大阪クリニック -
IVFなんばクリニック -
うつのみやレディースクリニック -
中国・四国
中国・
四国
島根大学
岡山大学
広島県立広島病院
山口県立総合医療センター
徳島大学
ミオ・ファティリティ・クリニック -
岡山二人クリニック
九州・沖縄
九州・
沖縄
長崎大学
蔵本ウイメンズクリニック -
ART岡本ウーマンズクリニック -
セント・ルカ産婦人科  -
竹内レディースクリニック -
琉球大学 -

※情報はあくまで現時点のもので、随時変更になる可能性があります。
 (2016年9月2日現在 未受精卵子・卵巣組織 29施設、未受精卵子のみ 34施設、卵巣組織のみ 1施設)