「日本の「がん・生殖医療」発展のために」

がん治療と妊娠~がん治療後の将来を見据えて~

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カウンセリングに関して

がん・生殖医療におけるカウンセリングの展望

日本生殖医療心理カウンセリング学会 森本 義晴

ごあいさつ

この度、日本がん・生殖医療研究会におかれましては、心理カウンセリング部門への取り組みを始められたとのことおめでとうございます。研究会設立早々に、心の問題に取り組まれることの意義は大きく、その先見性に敬意を表するものであります。また、日本生殖医療心理カウンセリング学会に対し、共同研究の申し込みを頂き有難うございました。大変光栄に存じますとともに、嬉しく存じます。早速、学会内で議論しましたところ、貴会の趣旨は社会的意義も大きく、当学会としても全面的にご協力すべきという結論に達しました。そこで、今後貴会と連携しこの分野のカウンセリング技術の開発、発展を目指すことを予定しております。 さて、不妊治療に悩む患者様は増加の一途をたどっており、2010年の我が国の体外受精件数は24万件と米国を抜いて世界一となっております。また、社会は複雑さを増し、不妊治療にも先端科学技術が導入され、患者様の治療中のストレスは増大する一方です。本学会は10年の歴史を持ちますが、設立当時は生殖医療における心の医療を全ての方が認知していたわけではありませんでした。しかし、本学会の広範囲な活動によってこれが社会に認識されるようになったことは喜ばしいことです。 癌治療患者の妊孕性保存は、その数が少数であることと、癌治療医にそういった認識が無かったこともあって長い間置き去りにされてきました。しかし、近年になってこの分野が注目され、多くの癌患者が救済されるようになったことは大変有意義です。特に我が国で、鈴木直会長の下、貴会が立ち上げられたことはきわめて重要です。癌患者は癌治療そのものから多くの精神的ストレスを受けております。その上に、妊孕性の温存のための治療を受けなければならないストレスは想像を絶するものがあります。このストレスを少しでも軽減し緩和してゆくために、本学会は貴会に全面的ご協力を惜しまない所存です。この分野の精神的取り組みは世界のどのグループも始めておりません。是非素晴らしい患者支援システムを構築しましょう。

日本生殖心理学会
理事長 森本 義晴
日本生殖医療心理カウンセリング学会

がん・生殖医療専門心理士養成講座開講のご案内

 近年、本邦においても若年がん患者に対して、がん治療前にARTを施行し生殖細胞や配偶子を凍結保存して妊孕性を温存するがん・生殖医療が注目を集め、臨床現場での普及も進んでいます。がんによる生命の危機とがん治療による生殖の危機という二重の危機とストレス下に置かれ、さらにがん治療までの短い限られた時間の中で妊孕性温存の決定をも迫られる患者には、精神的なサポートが必要かつ求められますが、現在本邦にはがんと生殖両方の医療および心理に精通した専門の心理士は存在せず、その育成が急務となっていました。
 日本生殖心理学会(JSRP)と日本がん・生殖医療学会(JSFP)の協力により、この度「がん・生殖医療専門心理士養成講座」を開講する運びとなりました。今回は、日本生殖心理学会認定の「生殖心理カウンセラー」有資格者の皆様を対象として、がん医療とがん心理を学んでいただく場を用意させていただきました。これまでの養成講座と同様、講義と演習を経て試験を行い、資格認定を行います。講義は各分野の第一人者に講演を依頼しました。医療面では現場において頻度の高い乳がん・婦人科がん・血液がん・男性がんを取り上げ、がん医療と妊孕性温存の実際を解説します。心理面では心理ケア・アセスメント・心理療法・支持療法・社会資源・生活支援・個人と家族へのカウンセリング・倫理問題などの講義と実践介入・心理教育・グリーフセラピー・家族アプローチなどの演習を行い、受講後は職場に帰ってすぐに実施、実践できる内容であり、がん・生殖医療心理関連の教育講座として比類無く完成度の高いものです。そして今回の資格は、現在保持されている生殖心理カウンセラーの上位の資格となり、さらにJSRPおよびJSFP両学会の認定資格となります。卒業後も資格の更新・継続を行うほかに相談窓口や卒後研修を用意し、学会としても卒後支援を続けていきます。今回とり上げていない小児がんや精巣凍結など将来の問題、また施設間・職種間の連携などについても学会講演や卒後研修でupdateしていく予定です。
プログラムの概要は以下の通りです。


2016年度 がん・生殖医療専門心理士養成講座

概 要
主 催 日本生殖心理学会 理事長 森本義晴/日本がん・生殖医療学会 理事長 鈴木 直
責任者 日本生殖心理学会 副理事長/がん生殖保存心理カウンセリング小委員会委員長 高見沢聡
目 的 がんによる生命の危機とがん治療による生殖の危機という二重の危機とストレス下に置かれ、さらにがん治療までの短い限られた時間の中で妊孕性温存の決定をも迫られる患者には、精神的なサポートが必要かつ求められますが、現在本邦にはがんと生殖両方の医療および心理に精通した専門の心理士は存在せず、その育成が急務となっている。
主な内容 講義と演習を経て認定試験を実施の上資格認定を行います。
医療面では現場において頻度の高い乳がん・婦人科がん・血液がん・男性がんを取り上げ、がん医療と妊孕性温存の実際を解説します。心理面では心理ケア・アセスメント・心理療法・支持療法・社会資源・生活支援・個人と家族へのカウンセリング・倫理問題などの講義と実践介入・心理教育・グリーフセラピー・家族アプローチなどの演習を行い、受講後は職場に帰ってすぐに実施、実践できる内容であり、がん・生殖医療心理関連の教育講座として比類無く完成度の高いものです。
講 師 講義は医師、研究者、ソーシャルワーカー、臨床心理士、看護師ほか、各分野の第一人者にお願いしています。
認定証 現在保持されている生殖日本生殖心理学会カウンセラーの上位の資格と位置付けとして
日本生殖心理学会学会および日本がん・生殖医療学会の両学会としての認定資格となります。

  • 【日 程】
  •  第1回 : 4月16日(土)、17日(日)
  •  第2回 : 5月14日(土)、15日(日)
  •  第3回 : 6月25日(土)、26日(日)
  •  ※いずれも土曜13:00~19:00、日曜9:00~17:00
  • 【会 場】
  •  東邦大学 看護学部(東京都大田区)

平成28年4月
日本生殖心理学会 副理事長  髙見澤 聡
がん生殖保存心理カウンセリング小委員会委員長

サイコソーシャル・ケア小委員会の紹介

日本生殖医療心理カウンセリング学会 森本 義晴

 こんにちは。サイコソーシャル・ケア小委員会の杉本です。
がん・生殖医療の患者さんは「生命」と「妊孕性」の危機に同時に直面するという困難な状況にあります。そのような患者さんとご家族の支えになりたい、そう我々は願っております。
サイコソーシャル・ケア小委員会がどのような活動をしているかご紹介させていただきます。

がん・生殖医療との出会い

 がん・生殖医療との出会いは、2012年の夏に本学会理事長の鈴木直先生のご講演をお聞きした時でした。その頃の私は大学病院で生殖医療を行うことに少しずつ意義を見出せなくなっていました。そんな時に出会った新しい世界であるがん・生殖医療は、まさに「黒船」の到来と私の眼には映りました。生殖医療の新しい時代が来る、そんな興奮と感動に身を震わせていたことを今でも覚えております。

サイコソーシャル・ケア小委員会の立ち上げ

 そして、2012年11月に日本がん・生殖医療研究会(現・日本がん・生殖医療学会: JSFP)が設立され、間もなくして精神的サポート体制についての小委員会が結成されました。2013年3月7日に第1回の小委員会を開催して以来、毎月1回のペースで医師、看護師、心理士、培養士、遺伝カウンセラーと多領域から集まったメンバーが学際的な多職種連携のもとにがん・生殖医療での心理的サポートの在り方について 議論を重ねています。診療ツールの開発、心理面についての臨床研究なども企画し、シンポジウムによる啓発なども行っております。診療ツールには以下のようなものを開発しております。

 ●カウンセリング
 ●フォーマット
 ●私のがん・生殖ノート

 問診票は、心理面の評価を行うための見守りリストと称して、うつ病の評価に有用なK6、PTSDの評価に有用なIES-Rを組み込んでいます。カウンセリング・フォーマットは知識・経験の集積・共有を目的としております。私のがん・生殖ノートは、患者さんと各医療職とのコミュニケーションを潤滑に行うためのメモ代わり、そして知識が整理できるような構成になっております。
 臨床研究では乳がん患者さんへの介入試験をスタートさせており、その他にも様々な臨床研究を計画中であります。

シンポジウム開催

  2014年11月30日に東京慈恵会医科大学1号館においてがん・生殖医療における精神的サポートをテーマにしたシンポジウム「がん・生殖医療導入に向けた精神的サポート体制構築について検討する」を本学会と日本生殖医療心理カウンセリング学会(現・日本生殖心理学会)と共同開催しました。本シンポジウムでは午前中に看護職、心理職、遺伝カウンセラーを代表する著名な先生方からご講演をいただきました。午後には9つのチームに分かれて、各々「職種間の連携」、「診療科間の連携」、「施設間の連携」、「乳がん症例の連携」についてテーブル・ディスカッションを行いました。事前にグループ分けをさせていただいていましたので、テーブル・ディスカッションに参加されなかった方々はフリー・ディスカッションに参加していただきました。私はこの時はフリー・ディスカッションの司会を務めておりました。テーブル・ディスカッションを終えて他の部屋から戻ってこられる方々を壇上より拝見しましたところ、皆、熱気にあふれた様子であり、議論が白熱していたことが伝わってきました。アンケート結果を拝見しましたが、「考え方を共有することができた」、「今後も同じテーマを扱った研修を継続してほしい」という声が多く見受けられました。企画した当時者である私としては、今回のシンポジウムをもとに精神的サポート体制構築の資材を収集することを狙っていましたが、残念ながらそこまでは到達できませんでした。しかし、多くの方が考えを共有することができ、「今ここが、がん・生殖医療の精神的サポートのスタート地点なのだ」という認識も共有できたと感じることができました。このような背景の中で、次のステップに進むために、がん・生殖医療の先進地であるシカゴのNorthwestern大学にあるOncofertility Consortiumへの留学を検討していくことになりました。
  以下に私が留学で学んできたことを記します。

Oncofertility Consortium留学

  私は、がん・生殖医療におけるサイコソーシャル・ケアの在り方を学ぶために2015年8月よりの約3か月間、米国シカゴにあるNorthwestern大学へ留学することになりました。Oncofertility ConsortiumのDirectorであるTeresa K Woodruff教授のもとで学ばせていただきました。私がこちらで学ぶべき課題としたのは以下の2点でした。

 ●日本版のDecision Treesを作製すること
 ●がん・生殖医療におけるPsychosocial care体制の実態調査


  日本版のDecision Treesを作製してすぐに問題点に直面しました。卵子提供をはじめとするdonationが日本産科婦人科学会の会告で禁止されている現状では、がん・生殖医療の患者さん達にとってオプションが極めて少ないという点です。妊孕性温存療法が成功しなかったがん・生殖医療の患者さんが家族を持つ選択肢として特別養子縁組の比重はとても重たいものとなります。私は特別養子縁組の現状について検索を始め、その厳しい現実を初めて知ることになりました。アメリカでは年間約12万件の特別養子縁組が行われていると推測されていますが、日本ではなんと600件程度しか行われていないのです。そして、アメリカの特別養子の縁組を扱うAgencyには、がんサバイバーを養親として対象外にしているところもあることを知りました。Oncofertility ConsortiumのPatient NavigatorであるKristinからは、「がんサバイバーを一切差別しないと誓っているAgencyが数社あり、私はそこを紹介している。」とアメリカの現状を聞きました。日本のAgencyの現状についてはまだ知られていません。私はWoodruff教授と話し合い、日本の特別養子縁組についてのアンケート調査を行うことにしました。特別養子縁組に関わっている団体、マス・メディアの方とコンタクトをとり情報を集める一方で養護施設の現状などもインターネットで調査しました。3万人以上のお子さんが養護施設にいるにもかかわらず、特別養子縁組がなかなか進まない現状が明らかになりました。この現状を「Problem」という表現をした私に対してWoodruff教授は「Problemという表現は過去のことを言っているので好きじゃないわ。現在のことはOpportunityというのよ。日本にはこんなにも多く子供達が養子縁組を待っているじゃないの。これは大きなOpportunityよ。」と表現されました。Woodruff教授の講演はYoutubeなどでも見ることができますが、とても表現力が豊かで人の心を動かすプレゼンテーション能力の極めて高い方です。この言葉は私にとってとても印象的でありました。その後、国立成育医療研究センターの臨床心理士の小泉智恵先生の多大なご援助のもとに、がん・生殖医療における特別養子縁組(donationにも少し言及しております)に対する、がんサバイバー、Agency、腫瘍医、生殖医療医向けのアンケートを完成することができました。現在、倫理委員会への書類の作成中であります。この結果に留意しながらDecision Treesの運用方法を検討していくべきであると考えております。そして、必要があれば他領域との学際的な協力関係のもとにがんサバイバーの方が家族を作る選択肢がより豊かになる社会作りに貢献していくべきであると考えております。
  留学開始から3週間目に入った時に、最初にWoodruff教授から与えられた課題を一通り消化しました。その時点である程度の信用を頂けたのかOncofertility Consortiumにかかわっている多くの方をご紹介いただきました。Oncofertility Consortiumの中でPsychosocial careにかかわっている中心人物である心理士のAngela、Patient NavigatorのKristin、そして、生殖医療医のDr. Robins、遺伝カウンセラーのWicklund准教授です。Wicklund教授は多忙で都合がつかないとのことでしたが、代わりにSuzanne准教授がインタビューを受けてくださいました。このインタビューを通じてようやくOncofertility ConsortiumのPsychosocial care体制の全貌が見えて参りました。要点を説明しますと、腫瘍医は、妊孕性温存療法の適用が考えられる患者さんをまずはPatient NavigatorのKristinへ紹介します。そこでKristinからがん・生殖医療の情報提供が行われます。彼女は最初の話は1時間程度で精神的ダメージを受けている患者さんに負担にならないように、あまり細かく話し過ぎないように心がけていると話してくれました。がん・生殖医療という複雑で、習熟した者でないと説明が困難である領域では、亀田総合病院の臨床心理士の奈良和子先生がなされているような「まずはこの人に紹介すればいい」という明確なターゲットがあることは有用であると考えておりましたが、Oncofertility Consortiumでも同様であることを確認できました。Kristinは患者さんからの連絡がいつでも受けられるように24時間365日そのための携帯電話を肌身離さずにもっているようです。アメリカ大陸という広大な領域に患者さんが点在しているための措置と言えますが、現在JSFPがすすめている県単位でのがん・生殖医療の拠点作りが進んでいき、その施設が彼女と同様の対応ができるような人材を確保できれば、個人への負担が集中しない体制で、同様な患者さんへの支援体制ができるようになるのではないかと考えております。そのような人材教育を日本生殖心理学会と協力して行っていくことも我々の課題であると考えます。そして、心理支援の中心である心理士のAngelaですが、がん・生殖医療の患者さんには必ず一度面接を行い、必要に応じて適宜心理療法を施行しています。彼女はがん・生殖医療の患者さんのみならず、不妊症の患者さん全般を対象に心理支援を行っています。そこで大切になってくるのがKristinとの連携です。この二人はお互いにリスペクトしあいながら、緊密に連携をとっております。そして、毎週の生殖部門ディビジョン・ミーティングでは彼女達のみでなくスタッフ全員が平等に意見を出し合いながら患者さんのケアを心がけています。ファーストタッチでのKristinからの情報提供を出発点として、医師、看護師が率直に平等に意見を言いながら心理部門の統括者であるAngelaが皆をコントロールしてPsychosocial care体制が運営されているという状況を学ぶことができました。この体制のさらに分析することにより普遍的なPsychosocial care体制の確立を目指す研究案を国立成育医療研究センターの小泉先生が作成されました。Woodruff教授からもAgreeを得ており、今後皆で協力してこの研究を支援していきたいと思っております。 以上のような内容を学ぶことができました。私としては正直、雲をつかむような気持で出発した留学でありましたが、Oncofertility ConsortiumのWoodruff教授はじめとするスタッフ皆からの多大なる支援、そして、日本からの鈴木教授並びに委員会スタッフのご支援のおかげで当初の期待以上の成果が上げられたと感謝しております。

これからの展望

 2016年には小委員会が立ち上がってから3年目を迎えることになります。この間には開催したシンポジウムのみならず、様々な学会などで講演の機会をいただいたり、小委員会のメンバーが学会発表などを行うことで啓発活動を行ってきました。シンポジウムでも手ごたえを感じた通り多くの医療者の方ががん・生殖医療における精神的サポートに強い関心を持ち、参加したいと考えています。Oncofertility Consortiumのサイコソーシャル・ケア体制から学んできたことをもとに、我々は日本における体制の未来像を構築していく必要があります。私はまずPatient Navigatorのような役割をする人材の育成が必要であると考えております。そのために日本生殖心理学会と連携して教育体制を整備していくことを検討しております。さらには本学会が推進しているような地域での連携体制の構築をもとに、その地域の中核施設毎に精神的サポートに関わる心理職、さらにはPatient Navigatorの役割を果たす人材を配置することにより、一部地域、あるいは施設、そして職種に負担が偏らずに絶えることなく連携していける心理的サポート体制が築けるのではないかと考えております。そのためにはさらなる議論と啓発が必要であり、その根拠となるデータを示すための研究も必要となってくると考えています。我々小委員会ではそのために必要な活動を今後も継続していくことにより、日本のがん・生殖医療の発展に寄与し、患者さんとそのご家族を支えていきたいと考えております。

日本がん・生殖医療学会
サイコソーシャルケア小委員会
委員長 杉本 公平